サイエンスSARU『攻殻機動隊』は“原作”をどこまで再現? 押井守版やPS版と比較検証

新『攻殻機動隊』は“原作”をどこまで再現?

 「誰かが漫画にあってアニメにないものは軽いノリだと指摘していたけれど、それは完全な誤解です」。これは、『攻殻』を原作のテイストからかけ離れた、硬派でシリアスなアニメ映画に仕上げた押井監督の言葉だ。1月から4月にかけて東京で開かれ、7月17日から8月30日まで兵庫県立美術館で開催の『攻殻機動隊展 Ghost and the Shell』の図録に寄せたもの。そこでは、漫画チックな要素は排しても、士郎が原作で描こうとしたテーマなり本質をすくい取ろうとしたことを話している。

 『攻殻』を特集した『芸術新潮』(新潮社)2026年2月号での押井監督のインタビューによれば、「原作の素子は首が細くて胸が大きい。アニメの美少女をリアルにしたような絵柄で、エロティックな描写も多い。これをそのまま映画化すると、下手したら18禁になりかねない。それでは困るので、素子のキャラクターは変えざるをえなかった」そうだ。一方で、「ネットが張り巡らされた近未来でプログラムが人格を持ち、自ら生命であると主張する話を映画化するにはどうしたらいいか、ずいぶん考えた。使えそうなセリフを拾いながら、原作を20回は読み直しました」という。

 結果として、『GIS』はルックこそシリアスながら、ストーリーは原作からエピソードを拾い抜粋したようなものに仕上がった。以後の『攻殻』についても、押井監督は図録の中で、「テクノロジーをベースにして未来のヴィジョンをどう考えるか」ということを原作も含めた基本線として、「神山はそれを社会的な現象として考え」、テロや移民といった問題を『S.A.C』の一連のシリーズで描いたと解説している。『攻殻機動隊 ARISE』(以下『ARISE』)や『攻殻機動隊 新劇場版』(2015年)を総監督した黄瀬和哉については、冲方丁の脚本を得て、「いままでなかった種類の犯罪の可能性を通じて『攻殻機動隊』を描いた」と見ている。

 こうして見ると、『攻殻』の映像化は、漫画を原典として込められているテーマを感じ取りつつ、社会問題や犯罪をシリアスに描くというスタンスから、押井監督版のキャラクターデザインを踏襲して作られてきたところが大きかった。黄瀬総監督は『ARISE』にコミカルさを入れたというが、漫画的な表現はさすがに避けた。

 そうした系譜が、最新作『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』で原作準拠という形でリセットされた。そこから出てくるのは、漫画が動いて色がつき、音声が鳴るだけのものかというと、やはり演出なり脚本なりといった部分で、しっかりとアップデートされたものになるはずだ。

 半田修平によるキャラクターデザインは、表情や等身に漫画のようなコミカルさを持たせつつ、ギャグにはならないよう極端なデフォルメは避け、映像の中の世界にキャラクターたちが生きている感じを出そうとしている。監督のモコちゃんをトップに抱いて繰り出されるキャラの芝居やアクションも、ところどころにシリアスさを残してリアリティを維持しようとしている。

 そこに加わるキャラクターたちの声が、原作により近いアニメといった雰囲気を支える。少女らしさが残っていた『ARISE』の素子に続く起用となった坂本真綾は、押井や神山の作品で田中敦子が演じた素子の大人としてのニュアンスを残し、一方でガサツだったりエロティックだったりする漫画の雰囲気に合わせたニュアンスを乗せて、他の映像にはなかった素子をそこに出現させる。

 PlayStation版ゲームの『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』にも、ムービーパートで原作に近い表情や仕草を見せる素子が登場したが、演じた鶴ひろみの声はややトーンが高く、先行したアニメ映画とは違いが目立った。最新作の素子は、田中と鶴の間を行くようなところもある。共に鬼籍に入った田中と鶴が何を思うかを可能なら聞いてみたかった。

 そのPS版でトグサを演じていたのが、『機動戦士ガンダム』のブライト役で知られる鈴置洋孝だ。最新作でトグサを演じる中村悠一は、そんな鈴置の美声ぶりをしっかり受け継いでる。バトー役の安元洋貴は、押井や神山の作品でイメージを固めた大塚明夫や、『ARISE』の松田健一郎が抑えたコミカルさを出し切ることで、新時代のバトーのイメージを新たに形作ることができるだろう。荒巻役には阪脩、大木民夫、中博史といった名前が並ぶが、山路和弘も負けない実力と知名度を持つ声優。変化の激しい漫画版の表情にマッチした部長ぶりを聞かせてくれるに違いない。

 コミカルといいつつ原作自体も、次第にシリアスの度合いが増し、コミカルな表情や仕草はちょっとした味付け程度になっていく。そうした変化に合わせて映像や演出がどうなっていくのか、声優たちの演技がどこまでキャラになじんでいくのかを見ていく楽しみがありそうだ。

 円城塔によるシリーズ構成と脚本が、ストレートなのか『ゴジラ S.P <シンギュラポイント>』のような魔球なのかも気になるが、原作の解説役というスタンスを自認していることもあり、大きな改変はなさそうだ。とはいえ、最先端の科学や情報技術に長けていることもあり、原作が描かれた1989年の最先端を、2026年から見ても違和感なく、そしてより未来を想像させるものにしてくれることだけは信じていいだろう。

 楽しみどころの尽きない作品だ。

■放送情報
『攻殻機動隊 THE GHOST IN THE SHELL』
カンテレ・フジテレビ系“火アニバル!!”枠にて、毎週火曜23:00〜放送
Prime Videoにて、地上波同時国内見放題最速配信開始/同時に海外独占配信開始
キャスト:坂本真綾(草薙素子役)、山路和弘(荒巻大輔役)、安元洋貴(バトー役)、中村悠一(トグサ役)、後藤光祐(イシカワ役)、奈良徹(サイトー役)、大井麻利衣(オペレーター役)、金田朋子(フチコマ役)
原作:士郎正宗『攻殻機動隊』(講談社 KCデラックス刊)
監督:モコちゃん
シリーズ構成・脚本:円城塔
キャラクターデザイン・総作画監督:半田修平
OP主題歌:King Gnu「GO GHOST」
ED主題歌:MILLENNIUM PARADE「Blue」
アニメーション制作:サイエンスSARU
©2026 Shirow Masamune/KODANSHA/THE GHOST IN THE SHELL COMMITTEE
公式サイト:theghostintheshell-anime.jp
公式X(旧Twitter/日本):@thegits_anime
公式X(旧Twitter/グローバル):@thegits_animeEN
公式Instagram:@thegits_anime

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