『風、薫る』りんと直美が大喧嘩を経て“本当の家族”に 寂しくも晴れやかな一時の別れ

NHK連続テレビ小説『風、薫る』第16週「新風吹くころ」第76話では、りん(見上愛)と直美(上坂樹里)が大喧嘩する。向かう先は、“決別”ではない。2人が「本当の家族」になるために必要な過程だ。
約2年の訓練を受け、正式に看護婦となったりん。後輩の指導には早々に躓いてしまったが、対患者の仕事は相変わらず好きだった。ところが、自分の判断が患者の死期を早めてしまった(かもしれない)ことがトラウマとなり、包帯を巻くことすらままならなくなってしまう。それでも家族を養っていくために心を酷使して働き続けるりんを見兼ね、直美が行動に出た。

直美はりんの知らないところで、捨松(多部未華子)に彼女の新しい働き口を探してもらっていたのだ。捨松が見つけてきたのは、女学校の寮の舎監の仕事。給金は今より下がるが、住み込み食事付きなので決して悪くない条件だ。ただし、場所は新潟の上越で、家族とは離れ離れになる。
りんは自分でも看護婦の仕事を続けられる状態でないことは理解していた。しかし、ただでさえこの数年、家事や子育ては家族に任せっきりで、娘の環(英茉)にも寂しい思いをさせてきたため、すぐには首を縦に振れない。だからと言って、東京に留まってもし仕事にありつけなかったら、環を女学校に通わせることはできなくなる。見合いをする手もあるが、1度目の失敗でもう結婚は懲り懲りだ。

今のりんはまさに“詰み”の状態。そんなりんにまたもや直美が手を差し伸べる。自分も環の女学校の費用を負担するから、りんは東京で何かしらの仕事を探せばいいと言う直美。まさか彼女から、そのような自己犠牲的な言葉が出てくるとは思わず驚いた。というのも、これまでの直美は過酷な環境を一人で生き抜いてきたためにドライで、どこか他人との間に一線を引いている人だったからだ。
きっと直美は寛太(藤原季節)に一ノ瀬家に居候していることを“家族ごっこ”と揶揄されたときに、りんが「家族み〜んなで引っ越すんで」と庇ってくれたのが相当嬉しかったのではないだろうか。その言葉で初めて自分にも家族ができた気がした。だから、家族としてりんの役に立ちたいし、りんにも家族として自分を頼ってほしい。

しかし、実際はずっと直美の“片想い”だった。元来、りんは長女としての責任感が強い女性だ。父の信右衛門(北村一輝)が亡くなり、家族のために嫁ぐことを決意したときもそう。周りには何の相談もなく、自分一人で目の前の問題を解決しようとしてしまう。だが、それこそがすべての間違いの始まりであるように思う。山本(本田大輔)のことも直美に一言相談さえしていれば、もっと良い方法を見つけられたかもしれない。そのことに無自覚なりんは直美の申し出を受け入れようとせず、2人は「でれすけ!」「でれすけ!」と言い合いに。
家族だからこそ、頼ってほしい直美と、家族だからこそ、迷惑をかけたくないりん。このまま収拾がつかなくなるかと思いきや、先に直美が折れた。美津(水野美紀)と環も呼び、3人の前で「私、この家の本当の家族になります」と宣言。自分が環の2人目の母親となり、新潟へ行くりんの代わりに責任を持って育てると告げた。粋だったのは、「りんのため」ではなく、あくまでも「自分がそうしたいから」というスタンスで頭を下げたこと。そうすれば、頑固なりんも提案を受け入れやすいと思ったのではないだろうか。

尚も「でも、普通じゃないでしょ?」と拒否感を示すりんだが、すかさず美津が「世間様の当たり前の道をりんを歩んでこなかったではないですか」と論破した。たしかに、今さらだ。夫と離縁したことも、看護婦を目指したのも、当時の一般的な価値観に照らし合わせたら“普通”ではない。それでもすべては環を女学校に通わせるという夢のために、あえて逆風にさらされる道を進んできた。だとしたら、今回も選ぶべき道は決まっている。
環も「寂しいと悲しいは違う」とした上で、「寂しいけど、お母さんが夢を叶えるのは嬉しい。この頃、お母さんが元気ないのは悲しい」と子どもながらにりんの背中を押した。少々聞き分けが良すぎる気もするが、りんは迷いがなくなり、新潟行きを決める。第76話のラストカットは、一緒に台所に立つりんと直美の後ろ姿だった。その後、直美はりんに環が好きな小魚の佃煮の作り方を教わることに。そんな2人の“お母さん”の後ろ姿がラストカットとなった第76話。偶然の出会いから始まり、2人は同期から友人、そしてついに家族となった。一旦は別々の道を歩むことになるけれど、いつかまた道が繋がるときがくるのだろう。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK






















