『風、薫る』上坂樹里演じる直美はなぜ魅力的? りんとの対比で見える“ヒロイン性”

NHK連続テレビ小説『風、薫る』が後半戦に突入し、正式に看護婦となった主人公・一ノ瀬りん(見上愛)に逆風が吹き込んでいる。りんが病院の院長にかけ合い、看護科の授業を受けられることになった看病婦のツヤ(東野絢香)が疲労から仕事でミスをおかしてクビに。さらには病院から将来を嘱望される見習い生のヒデ(池田朱那)がりんの自己犠牲的な看護婦像に疑念を抱き、退職したことで、とうとうりんは外科の看護婦取締の任を解かれてしまった。一方、がんの進行により衰弱する辰治(本田大輔)からは一時帰宅を懇願され、命を優先すべきか、それとも患者の要望を聞き入れるべきかの選択を迫られる。

見習い生たちに自ら提示した「What is nursing?(看護とは何か)」という問いに改めて直面するりん。そんな彼女を支えるのが、もう一人の主人公・大家直美(上坂樹里)だ。2人は育った環境も性格も正反対がゆえに当初はぶつかることも多かったが、看護の学びの中で少しずつ歩み寄り、友情を深めてきた。直美が一ノ瀬家に居候しながら、りんと同じ病院に勤務し始めてから、さらに彼女たちの関係は特別なものとなってきている。いよいよバディドラマとしての本領が発揮されてきた所感だ。今回はこれまでのストーリーで見えてきた2人の違いを取り上げつつ、直美が提示するヒロイン像の魅力に迫りたい。
りんは栃木県出身で、武家から農家へ転じた一ノ瀬家の長女。決して暮らしは豊かではなかったが、仲の良い両親と自分を慕ってくれる妹に囲まれた温かな家庭で育った。加えて元家老の父・信右衛門(北村一輝)は人格者であり、その背中を見て育ったりんもまた常に正しい道を選ぼうとし、弱きものには迷いなく手を差し伸べる優しい子だ。素直な性格なので人にも好かれる反面、無自覚に周りに守られてきたからか、世間知らずなところもある。

一方、直美は女郎だった母親に生後まもなく捨てられたために親の顔を知らない。その後は孤児院の役割を果たしていた教会を転々と渡り歩いてきたようだ。“みなしご”として差別され、泥水を啜ってきた彼女は世間の厳しさも冷たさも嫌というほど知っている。だから、生きるためには、多少狡かったり、道徳や倫理に反している道や手段も時には選んできた。「親ガチャ」という言葉が流行しているように、生まれた環境でその後の人生が決まってしまうような格差社会を生きる現代人は、りんよりも「“正しい”で生きられる幸せな人が嫌い」と語る直美の方に思わず共感してしまうのではないだろうか。
それも、ただ世の中や己の恵まれなさを嘆くだけではなく、日本から脱出してアメリカに行くことを夢見てコツコツと英語を勉強したり、身分を偽って鹿鳴館の華と言われた大山捨松(多部未華子)にお近づきになろうとしたり、手段はどうであれ、自分の力で道を切り開いていこうとする直美は逞しくてカッコいい。しかしながら、本人もその自負があるために、看護婦養成所では同級生たちを自分より恵まれているというだけで、それぞれの事情を知ろうともせずに敬遠していた時期もあった。

それが、自分とは正反対なりんの多少強引な優しさに触れる中で少しずつとげとげしさが緩和され、性格が丸くなってきたように思う。良くも悪くも他人の気持ちや本質をすぐに見抜ける直美は病院の助教授・藤田(坂口涼太郎)をおだてて取り入るなど、相変わらずズル賢いところもあるが、決して自分のためだけではない。自分を含めた看護婦、看病婦の権限を少しでも強めるためだ。かつては、自分が身につけてきた知識や知恵は自分のために使うスタンスだった直美だが、今では己の立ち回りのうまさを他者のために自然に使っている。でも素直じゃないので、その優しさをこれみよがしにアピールしたりはしない。“あくまで仕方なくやってますよ”感を出している。これほどまでのツンデレキャラも朝ドラ主人公としては珍しいのではないか。





















