『コンビニ兄弟』中島健人が一人二役で生んだ奇跡 『正直不動産』にも通じる温かな“お約束”

『コンビニ兄弟』が描いた温かな“お約束”

 『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』(NHK総合/以下、『コンビニ兄弟』)が、6月30日に最終回を迎える。三彦(中島健人)の笑顔とツギ(中島健人/一人二役)の力強さに癒された火曜日の夜が終わってしまうのかと思うと、心にすきま風が通り抜けるような感覚になる。

 なぜこんなにさみしくなるのだろう。それは、本作に温かなお約束が詰め込まれていたからかもしれない。たとえば、“フェロ店長”三彦を題材に漫画を描く光莉(田中麗奈)が、興奮したときに方言バリバリで捲し立てる様子や、太郎(鈴木福)が三彦を軽くあしらう様子。樹恵琉(嵐莉菜)にメロメロになる恋斗(曽田陵介)。そして何より、無自覚に色気を撒き散らす瞳に星を宿した三彦の笑顔、物腰柔らかに歯の浮くようなセリフ。「またやってる」と言いたくなる、愛おしいコミュニケーションを何度も見ているうちに、テンダネスのみんなに対して自然と愛情が芽生えていった。

 三彦が星を背負ってキザなセリフを告げるシーンを何度も見ていたら、同じくNHK総合のドラマ10作品『正直不動産』を思い出した。思えば、『正直不動産』も随所にお約束が詰め込まれた作品だ。代表的なものが、嘘をつこうとした永瀬(山下智久)に吹き付ける突風と、言わなくてもいいことまで言ってしまう永瀬の様子、それに戸惑ったり、怒ったりする周りのリアクションだ。毎話繰り返し観るうちに、お約束の展開が心地よくなり、だんだんと『正直不動産』という作品自体に愛着を持っていった。

 登場人物同士のお約束なやりとりは、そのまま作品が持つ温もりにつながる。『コンビニ兄弟』は、中島健人を筆頭に自分の役柄らしさを楽しむ俳優の魅力が詰まった作品だった。

 また、本作が持つ温かみは各話で登場したコンビニのお客さんたちのエピソードが生み出したものでもある。

 第3話では、学校では疎遠だった桧垣梓(稲垣来泉)と田口那由多(新津ちせ)がイートインスペースで心を通わせていく様子が描かれた。那由多との交流により、梓のスタンスが変化していく姿も印象的だった。第7話では、一緒に住んでいるのに心を開けなかった祖母・満江(余貴美子)と孫・詩乃(中井友望)が、三彦のファンクラブメンバーからの助けもあり、互いの心境を打ち明けることができた。

 各エピソードを観て感じるのは、社会的な役割は場所に依存しているということだ。梓と那由多は学校では距離のある同級生、満江と詩乃は交流の少なかった祖母と孫という関係性だった。テンダネスのイートインスペースが、学校や家で縛られていた彼女たちの社会的な役割を解放したのだ。

 そしてあの場所には、良い意味で自分を出しすぎない三彦がいる。なんびとも受け止め、つぶさに観察するスタンスが、不安を抱えた登場人物たちを安心させるのだ。

 三彦とテンダネスのイートインスペースに救われる人たちを見ていると、第3の居場所の価値とは、社会的な役割から解放されることにあるのかもしれないと思わされた。そして、あの場所なら、社会的な役割から解放されたまっさらな自分を穏やかに受容してもらえるという実感が、必要なのかもしれない。

 『コンビニ兄弟』は、中島健人が持つアイドルオーラやギャップを活かした一人二役という華やかな設定を取り入れながら、人が一歩踏み出すときに必要な手助けと、そこから生まれる小さな奇跡を描いた良作なのだ。

■放送情報
ドラマ10『コンビニ兄弟 テンダネス門司港こがね村店』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送(全10回)
※毎週木曜24:35~25:20再放送
NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信
出演:中島健人、田中麗奈、鈴木福、嵐莉菜、馬場徹、齋藤潤、泉澤祐希、曽田陵介、どくさいスイッチ企画、ジョージアナ・ジェッテ、田中偉登、石川恋、仲島有彩、松金よね子、大島蓉子、街田しおん、光石研、萬田久子、中原丈雄、柄本明、舘ひろしほか
原作:町田そのこ
脚本:根本ノンジ
主題歌:藤井フミヤ「ココロ」(作詞:藤井フミヤ、作曲・編曲:大島賢治、ホーンアレンジ:竹上良成)
音楽:R・O・N、川田瑠夏
制作統括:山本敏彦(NHKエンタープライズ)、石澤かおる(NHK)
プロデューサー:室谷拡(NHKエンタープライズ)
演出:木村隆文、野口雄大、岡野宏信(NHKエンタープライズ)
写真提供=NHK

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