『風、薫る』バーンズの“最後の授業”が胸を打つ 卒業生6人が選んだそれぞれの未来

『風、薫る』バーンズの“最後の授業”

「私はスコットランドで看護を教えることになりました」

 別れというのはいつも突然やってくる。NHK連続テレビ小説『風、薫る』第58話では、バーンズ(エマ・ハワード)のこの一言から、看護学校卒業間近のりん(見上愛)たち6人のそれぞれの“夢と幸せ”を考え始める。

 バーンズは「私の夢はあなた方に託します」と英語で語った。突然始まったバーンズの“最後の授業”を神妙な顔で聞いている6人。思えば、多江(生田絵梨花)や直美(上坂樹里)のようにできる人がいたとはいえ、最初はみんなで英語に四苦八苦するところからスタートした。それが今では、バーンズと2カ国語を行き来するようにコミュニケーションできているのだから時の流れと全員の成長が感じられる。

 一方で、バーンズがいう“夢”がトメ(原嶋凛)にはピンときていない。夜に見るものではない、“将来こうなりたい”という思い。本作では、たびたび“女性の幸せ”がテーマとなっており、第12週「旅立ち」では、人生双六の「あがり」が「奥様」であることに疑問を持たなかった安(早坂美海)が、縁談を機に改めて自分と向き合い、自分らしい「あがり」を見つける姿が描かれた。トメが“自分の夢”のイメージが沸かなかったのは、仕事で夢を見つけて生きるよりも、誰かの言葉になんとなく従って、「奥様」なるというビジョンが意識の深くに根付いていたからかもしれない。

 日本で看護を教えることを決めたバーンズにとっての夢は、「看護婦が日本のどの病院にも当たり前にいるようになる」ことだった。“看護学校編”では看護の常識がわからず悪戦苦闘したり、理想の看護と現実のギャップに戸惑ったり、訪れた患者の死に心が乱れてしまったりするりんたちの姿が描かれたが、「夢を見るのは楽しいですが、かなえようとすると苦しくなるものです」と語るバーンズもまた、ベッドを見たこともない人たちが多い日本で奮闘していた1人だったことが窺える。それでも目の前には6人のナースがいる。

「それが60人、600人、6000人に増えた時、私の夢はかないます」

 こうして、師匠の“看護の夢”は、教え子たちに引き継がれていった。

 バーンズの言葉をきっかけに、りんたちは今後について考え始める。すると、しのぶ(木越明)が卒業後は看護婦として働かないことを打ち明けた。働きたい気持ちもあるが、それ以上に結婚がしたく、看護は、結婚したら身近な人のために使いたいと言うのだ。同じように喜代(菊池亜希子)も病院には就職せず、篤く信仰しているキリスト教の教会で伝道師となり、人々を助ける中で看護を生かしたいと言う。喜代は、人のためを思った行動でお金をもらっているという感覚に違和感を感じていたようだ。直美も長く教会で過ごしているが「私にはお金ももらえないのに働くなんて考えられない」と言っているので、まさに、生活と仕事に対する価値観の多様さが表れている。

 さまざまな事情を抱えた7人の女性たちは、梅岡看護婦養成所で出会い、茨の道を一緒に切り開き、途中、辛い別れも経験しながら一緒にここまで戦ってきた。そしてこれからまたそれぞれの道を歩んでいく。笑って語り合う中、しのぶと多江はあふれる涙を拭う仕草を見せていたが芝居ではなく、自然と溢れ出てきたもののように感じられた。演じる役の中だけではなく、見上愛、上坂樹里、生田絵梨花、菊池亜希子、木越明、原嶋凛、そして中井友望の7人にも強い絆ができていたのだろう。

 6人は、実習が始まってから初めて休日をあわせて横浜に卒業旅行へ。しかし簡単にはいかず、りんと環(英茉)と待ち合わせした団子屋で主人が倒れたところに居合わせてしまう。6人が協力して看護をし、命を助けようとしているところをじっと見つめていた環。バーンズの育てたタネが、育って開花し、その姿を見せることで誰かに新しいタネが植えられていく。そうやってナースが増えていく瞬間の第一歩がこの1シーンに描かれているようだった。

 人生は山あり谷ありだ。ナースになるという志を同じにしていても、いつまでも同じ道を歩んでいけるわけではない。6人が旅先で飲んだ苦いコーヒーは、そんな人生のちょっとダークな部分を象徴していたように思えた。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「リキャップ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる