『10回切って倒れない木はない』を韓ドラライターが解説 王道からの“変奏”が絶妙な物語に

『10回切って』を韓ドラライターが解説

王道展開からの脱却

 とはいえ、王道的話形であるがゆえに、敵役も善人役も、話をスムーズに進めるためにやや類型的であるうらみはある。ミンソクの両親と桃子の父、それぞれの交通事故死がほぼ同時に起きていたことから、偶然にも幼い二人は過去に病院で出会っていた。泣きじゃくる桃子に、ミンソクは「10回切って倒れない木はないよ」と語り掛けていたのだ。

 その後、桃子にひそかに恋心を抱く幼なじみの拓人(京本大我)を巻き込み、三角関係を繰り広げていくのだが、このように「運命の相手」を思わせるドラマチックな要素も、視聴者によっては都合の良い立て付けに見えるかもしれない。

 ところが第4話、ミンソクが「運命に翻弄されるだけの者」から脱却していく様子が見られるようになると、彼の迷いない動きがドラマを類型的なものから見事に変奏させていく。

 積極的にホテルで仕事を探し、スタッフたちとコミュニケーションを取るなど、それまでの控えめさは見られない。特に、婚約者の令嬢・映里(長濱ねる)が病院までミンソクを訪ねてくるエピソードからその変奏がはじまる。ミンソクに横領の疑いがかけられた時点で、すでに映里の親は縁談を解消しているのだが、自己主張の強い映里はめげずに日本へ追ってきたのだった。

 ミンソクが財閥の御曹司であることはすでに聞かされていた桃子も、突然現れてあからさまに嫉妬をあおる婚約者には穏やかでいられない。しかし映里の帰り際、ミンソクは静かに諭すようにして、自分に婚約の意思がないことを改めて伝える。

 「映里ちゃんの自分の欲しいものややりたいことに真っすぐであるところが眩しかった。でも今は、そばにいて笑っていられるだけで幸せだと思える人がいて、その人と一緒にいたいと思っている」

 つまりミンソクにとって、心はすでに決まっていたのだ。

タイトルが示す「プロセス」の先のオリジナルな物語へ

 大雨の中、往診に行ったまま帰りが遅い桃子を心配したミンソクは、院長の一言で彼女が事故に遭ったと思い込み、即座に外へ駆け出していく。自転車で転倒した桃子は、駆け付けたミンソクに嫉妬で苛ついて冷たい態度を取ってしまったことを泣きながら詫びる。父が事故に遭う直前に突き放してしまった記憶が蘇り、「大切な人と突然会えなくなるって分かっていたはずなのに」と錯乱する桃子を病院へ運ぶと、彼はいつまでも病室で付き添う。

 拓人が病室に入ってきても、すでに彼が恋敵であることを自覚しているにもかかわらず、彼を見据えたまま握った桃子の手を離さない。かつては自分の思うがままに生きる映里のような人物に憧れていたミンソクが、そんな憧れの存在に別れを告げたのち、初めて自分の意思で行動を選び取り、決して揺らぎを感じさせなくなる。いわば、類型譚の型を押さえたうえで新しい展開に乗り、ここから物語の幅を大きく拡張しようとしているのだ。

 ドラマのタイトルは「挑み続ければ必ず成功する」という韓国のことわざに由来している。主演の志尊淳は放送前のインタビュー(※)で、「木を10回切る中にも、いろんな過程があると思うんです。切りたくないけど切った時もあるだろうし、1人じゃなくて3人で切ったこともあるだろうし」と語った。

 つまり、ただ困難に立ち向かい成長していくというプロセスの中にある、オリジナルの展開を見逃さないでほしいということなのだろう。果たして流離するミンソクは、どのように木を倒していくのか。

参照
※  https://www.yomiuri.co.jp/otekomachi/20260420-GYT8T00142/

■放送情報
『10回切って倒れない木はない』
日本テレビ系にて、毎週日曜22:30~放送
出演:志尊淳、仁村紗和、京本大我、長濱ねる、キム・ドワン、キム・ジュリョン、オ・マンソク、でんでん、田辺誠一
企画:秋元康
脚本:川﨑いづみ、松島瑠璃子
音楽:はらかなこ
演出:小室直子、内田秀実
チーフプロデューサー:松本京子
プロデューサー:島ノ江衣未、本多繁勝
音楽:はらかなこ
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/10kaikitte/
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