TVer3冠&『九条の大罪』大ヒットの裏側 TBSの“キーマン”が明かす配信戦略の現在地

“さざ波”を立てる配信戦略

――「さざ波を立てる」というキーワードがありました。これは、放送の視聴率(=瞬間的なスパイク)のみをゴールとせず、放送後も「さざ波のように」継続的に視聴機会を創出していくということですね。いわゆるロングテールに近い意味でしょうか?
田中:ロングテールまで小さくならなくても、スパイクをどう立てていくのかというところですかね。スパイクを立てるタイミングを石山のチームが常に考えています。ずっと配信サービスに置いておくだけでなく、ユーザーの目を引くタイミングでリリースを出してみるとか。
――例えば、劇場版公開のタイミングで過去のドラマを配信するのも、さざ波を作る一環ですね。
石山:そうですね。例えば、映画『ラストマイル』公開時に、『アンナチュラル』や『MIU 404』を戦略的に多くのプラットフォームで配信して盛り上げるなど、IPの価値最大化に向けた取り組みは配信部門の重要な役割だと考えています。
――ドラマ配信についてはスピンオフ展開もあります。
石山:スピンオフに関しては、田中がParavi時代から試行錯誤していて、U-NEXTと合流してからも様々な知見を得て少しずつ発展させてきました。初期の頃は現場にも戸惑いがあったのですが、最近では番組側からこんな企画をやりたいと提案も出てくるようになっています。

――配信で物語を膨らませて見てもらえるのが、現場のモチベーションにもなっているのですか。
田中:そうですね。配信がファンダム形成に寄与することが浸透してきている実感があります。やはり、限られた放送時間にすべてを入れ込むのは難しく、その解決策としてスピンオフを配信で展開し、より楽しんで頂くということです。そういう好循環を作りたいと思っています。
石山:日曜劇場『キャスター』のサイドストーリーとしてU-NEXTで配信した『恋するキャスター』は、本編との連動もあり、わかりやすく成功した事例ですね。映画『グランメゾン・パリ』の公開に先立って配信した『グランメゾン・パリ番外編 LE MARIAGE~フランスの食文化を巡る旅~』も、映画撮影前の木村拓哉さんがフランスの食文化を巡るドキュメンタリー作品として、多くの反響がありました。
――そもそもTBSは伝統的にドラマの制作力が高いのですが、なぜなのでしょうか?
田中:ドラマのヒットについてはクールごとに変動することもありますが、元来TBSはドラマの放送枠が少ないんです。深夜は今はもうないですし、GP帯で3枠だけです。クオリティの高いドラマを制作するために枠数を絞っているので、制作者がそこに集中できるというのはあると思いますし、企画もいいものをチョイスできているのかなと考えています。
――放送外収入を稼げるコンテンツなので、テレビドラマの本数は昔に比べて全体では増えていますが、TBSはそんなに増やしてないんですね。
田中:放送外収入目的に枠だけを増やすのはちょっと違うかな、と思ってます。そもそもドラマって枠を作るまでに1年以上かかるものなんです。クオリティを落とさずに枠を増やすのは大変なんです。
流れの早い時代にどう対応するか

――韓国CJ ENMや、米国レジェンダリー・ピクチャーズとの提携も発表され、最近ではTHE SEVENがディズニーと実写ドラマ共同開発契約を締結するなど、今後ますますTBSはグローバル展開に積極的になると思いますが、基本的には配信というプラットフォームに載せて世界に届けていくことになるわけですよね。
田中:出し方は今いろいろ研究をしているところですね。例えば映画の可能性もあると思います。決まった成功例はまだ定まっていないので、今はいろいろな球を投げる時期だと思ってます。
――近年では縦型ショートドラマも台頭してきており、AIも急速に普及しています。
石山:縦型ショートドラマについては、テレビ局だからこそできる取り組みをやっていこうと思っています。4月期の金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』では、前日譚を縦型ショートドラマで制作し、BUMPで独占配信しています。『田鎖ブラザーズ』は、プロデューサーが『アンナチュラル』『MIU404』『ラストマイル』の「シェアード・ユニバース」を担当した新井順子で、今作も本編と縦型ショートドラマの世界線が地続きになっています。こうした放送局ならではの積極的なIP活用はこれからもどんどんやっていきたい。止まっているのではなく、いろいろなチャレンジを続けていきたいです。
田中:昔は、ドラマの新作に誘導するのはナビ番組がメインでしたが、今は配信で関連作品を見てもらうなど多彩になり、今回の場合は前日譚を配信します。これがどういう反応になるのか、僕らも楽しみにしています。
石山:各プラットフォームの方々と話して、縦型ショートドラマといえばこれ、という代表的な作品を出すことで、市場を一段階大きくできるのではないかと考えています。そこに放送局も期待されている部分はあるかなと。

――新しいものへの対応をどうすべきか答えが見つかりそうと思ったら、縦型動画など次のプラットフォームが出てきてしまうような時代ですよね。対応するのは大変ではありませんか?
田中:おっしゃる通りで、エコシステムの変化が本当に早いですね。動き続けていないといけないのは間違いないです。前回の成功例を踏襲するだけじゃ多分ダメで、新しいエッセンスを加え続けないといけない。疲れるのですが、時代の真っただ中にいる、という実感は非常に刺激的です。























