『あんぱん』の主人公がのぶである意味 アンパンマン誕生で“第1話”に追いつく

NHK連続テレビ小説『あんぱん』第1話の始まりは、晩年ののぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)が登場し、「アンパンマン」が生まれる直前の、やなせたかしが描いたイラストと連動した、これまでの朝ドラにはない演出だった。そこからおよそ半年。放送も残り2週となった『あんぱん』が第24週「あんぱんまん誕生」第120話にて、第1話冒頭のシーンに追いついたのだ。
窓のカーテンから光が漏れる仕事部屋で、嵩が机に向かっている。そこにのぶがやってきて「嵩さん、おはよう。朝だよ」とカーテンを開ける――。シーンとしては追いついていながらも、正確には少し違う演出が施されている。第1話で嵩が描いていたのは、太ったおんちゃんの姿だったが、第120話では顔があんぱんの誰もが知るアンパンマンの姿となっているのだ。

そこには命を削ってまで高知から東京まで自分たちに会いに来てくれた東海林(津田健次郎)や「アンパンマンはもっと飛べる」と献身的になって「アンパンマン」を伝え、支え続けたのぶの思いが形になってる。お腹を空かせて困っている人に、自分の顔を食べさせてボロボロのマントを翻し、夕暮れの空を飛ぶ。たとえ、自分の命が終わっても、パン作りのおんちゃんが新しい顔を持ってきてくれる。嵩にとっての幼少期の原体験とも言える、“ヤムおんちゃん”こと草吉(阿部サダヲ)が合わさった完成系とも言える「アンパンマン」の形だ。

筆者が第120話を観て思い出したのは、『あんぱん』がスタートする前の事前番組で、生前のやなせたかしが妻である暢のことを「体の一部」「共同体」と話す姿だった。それは、夫婦という関係性を超えた運命のパートナー。のぶは徹夜をする嵩に「おはよう」と声をかけて、カーテンを開けるということを日常的に行っていたのだと想像させる演出であり、アンパンマンは飛べると願い続けてきたからこそ、新たなヒーロー像の誕生に誰よりも喜び、八木(妻夫木聡)の会社「キューリオ」で子供が『アンパンマン』の絵本を開き笑顔になる姿に自分のことのように嬉しくなる。ここに『あんぱん』のヒロインをのぶにした意味があったように感じる。

『アンパンマン』誕生が描かれたここから先は、『あんぱん』にとってのエピローグ。先述した事前番組でも伝えられていたように、先に暢が亡くなっている史実をどのように描いていくかが一つのポイントとなっていくが、第25週「怪傑アンパンマン」の予告で描かれているのは戦争で大切な人を失った人たちの心を軽くする、“棘を抜く”ミュージカルの上演。そこでキーマンとなるのが、のぶの茶道の弟子・中尾星子(古川琴音)のようだ。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















