松山ケンイチのドラマ史に残るスピーチ 『テミスの不確かな法廷』最終回の切実な願い

『テミスの不確かな法廷』最終回の切実な願い

 安堂はその場で、自分が発達障害であることをカミングアウトする。13歳の時に発達障害の診断を受け、ようやく上手く社会に適応できない理由がわかって安心すると同時に、どうやって生きていけばいいのかという不安に襲われた安堂。そんな中、父の書斎から『六法全書』を見つけ、一筋の光が差した。そこに書かれた社会の約束事に従って、人々の争いごとを解決することなら、自分にもできるかもしれない。社会の役に立てるかもしれない。そしていつか父にも自分を認めてもらえたら、という気持ちが安堂にはあったのだろう。

 司法の道を志した理由は一人ひとり異なるが、「正しいことがしたい。正しくありたい」という思いは同じ。司法が無実の人を殺すという悲劇も、一人ひとりが正しくあろうとした結果、起きてしまった。人が人を裁く以上、完璧はあり得ない。問題は多くの人が真実から目を背けた結果、間違いが正されず、さらなる悲劇が生まれてしまったことだ。その原因は組織からの圧力や自己保身。将来の幹部候補と期待された前田が組織を守りたいがために結城の命を奪ったように、妻や生まれてくる子どものことが頭をよぎり、古川(山崎樹範)が萎縮してしまったように、正しくあるのは簡単じゃない。けれど、司法の人間が正しさを失ってしまったら、法律は揺らぎ、自分たちが暮らす社会の安定を根底から揺るがすことになってしまう。

「信頼を取り戻すために、信頼を失墜させる覚悟を持たないといけないと思います。起きてしまったことは変えられない。そこから始めるしかない。そこから始めるしかないんです!」

 司法の人間として、法律を愛する者として、正しくあろうとする安堂の姿が、人々の心を動かしていく。検察は即時抗告をせず、開かずの扉は開かれた。かつては安堂を否定していた結城だが、どこかでその力を認めていたからこそ、自分の思いを託したのだろう。門倉や小野崎も安堂の障害を「個性」と受け止め、「安堂流でいいんだよ」と声をかける。もちろん、障害を「個性」というには、あまりにもまだ社会の側に多くの課題が残されているのは事実だ。このドラマの放送開始前、松山がインタビューで安堂について「他の人とは傷ついている部分が圧倒的に違う」と語っていた(※2)。

松山ケンイチが向き合う実体のない“普通” 多彩な役作りは「別角度から常識を意識する」

NHKドラマ『宙わたる教室』の制作スタッフが贈るドラマ10『テミスの不確かな法廷』が1月6日より放送中。本作は、“普通”とは何か…

 当事者は私たちが知り得ない生きづらさやそれに伴う苦しみを抱えており、簡単に「わかる」とは言えない。それでも、松山は丹念な役づくりで安堂のことをわかろうとしてきた。その結果が安堂がラストに流した、あの真実味を帯びた涙に繋がっているのだろう。そんなふうに互いを理解し、支え合えていけたらいい。そして願わくば、ハンディキャップがあっても、当事者がそれを自分の個性だと自信を持って言える日が来たらいいなと思う。

 もうすぐ春が来る。安堂が花壇に移動させた綿毛も、そろそろたんぽぽに成長する頃だろう。自分の可能性を信じ、前を向いて歩いていこうと思わせてくれる『宙わたる教室』や『テミスの不確かな法廷』の制作チームによる次回作がすでに今から楽しみだ。

参照
※1 https://realsound.jp/movie/2026/03/post-2328843.html
※2 https://realsound.jp/movie/2026/01/post-2274839.html

■放送情報
ドラマ10『テミスの不確かな法廷』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送(全8回)
※毎週木曜24:35〜25:20再放送
NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演:松山ケンイチ、鳴海唯、恒松祐里、山崎樹範、山田真歩、葉山奨之、小木茂光、入山法子、市川実日子、和久井映見、遠藤憲一 ほか
原作:直島翔『テミスの不確かな法廷』
脚本:浜田秀哉
音楽:jizue
演出:吉川久岳(ランプ)、山下和徳、相良健一、富澤昭文
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
写真提供=NHK

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