ユニクロ 柳井康治に聞く、難民映画基金の背景 『PERFECT DAYS』で実感した映画の可能性

第55回ロッテルダム国際映画祭で、難民映画基金(Displacement Film Fund)の支援を受けた短編5作品がワールドプレミア上映された。避難を余儀なくされた映画作家たちの才能を世界へと開く本プロジェクトには、創設パートナーとしてユニクロも参画している。ユニクロの上席執行役員でありながら、第96回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされ、主演の役所広司が第76回カンヌ国際映画祭最優秀男優賞を獲得した『PERFECT DAYS』でプロデューサーを務めた経験も持つ柳井康治に、企業が社会課題に関わる多様な方法の中で、なぜ「映画」という表現手段を選んだのか、その背景と可能性について聞いた。
「パーソナルな物語」こそ届く、5作品に感じた確かな手応え

ーー難民映画基金の支援を受けた5作品を実際にご覧になって、率直にどのようなお気持ちを持たれましたか?
柳井康治(以下、柳井):5本ともまったく違う作品で、同じテーマのもとに集まっているにもかかわらず、ここまで表現が異なるのかと、まず純粋に面白さを感じました。監督の皆さんとはそれぞれ少しずつコミュニケーションを取ってきましたが、作品にはやはりその方のパーソナリティが強く反映されていて、大きな共通テーマを掲げながらも、非常に個人的な視点や感情が色濃く滲み出ている。その点は、いい意味でのサプライズでした。作り手の意図や意思がはっきりと刻まれているからこそ、観客の心に届く力も強くなるのだと思います。個人的な感覚ですが「みんなのために」という思いで作られた作品より、パーソナルなものがより深く反映された作品ほど、結果的に多くの人に伝わる確率が高まると思っています。そういう意味でも、本当にいい作品が揃ったと感じています。
ーー今回参加された監督の選出に至る経緯についても教えてください。
柳井:本来であれば、基金を立ち上げて公募を行い、その中から選ぶ形が理想的でしたが、今回は時間的な制約もあり、セレクション・コミッティー(選考委員会)が責任を持って選出する形を取りました。男女のバランスや地域性なども含め、特定の属性に偏らないよう配慮しながら5人が選ばれています。幸いにも、選出された映画制作者の皆さんがぜひ参加したいと快諾してくださり、本当にありがたかったです。あと僕はファンディングパートナーとして関わっていますが、セレクション・コミッティーには入っていません。資金を出す立場の人間が選考に入ると恣意性が働く可能性もあるため、そこは分けるべきだと判断しました。詳細なプロセスすべてに関わっているわけではありませんが、途中経過は共有されており、非常に多くの候補の中から慎重に選ばれ、声がけを経て決まった5人であることは確かです。

ーー今回のイベントには、UNHCR親善大使であり本基金の立ち上げに深く関わったケイト・ブランシェットさんも参加されていました。実際にお話をされてみて、どのような印象を受けられましたか? また、このプロジェクトに対する思いはどのように感じられましたか?
柳井:日本語で言うところの、“肝っ玉母ちゃん”のようなリーダーだなと感じました。リーダーシップという言葉で表すこともできますが、それだけでは少し足りない気がしています。単に引っ張っていくというよりも、もっと包容力があって、愛情ともまた少し違うのですが、「みんなで一緒にやっていくんだ」という強い意志を持っている方だと感じました。とても温かく、周囲を包み込むような存在で、このプロジェクトに対しても個人的な思いと責任感を持って関わっていることが伝わってきましたね。
難民問題は日本人にとっても“遠い話”ではない
ーー日本では、難民問題はどうしても日常生活から遠いテーマとして受け止められがちなように思います。そうした日本の観客に対して、今回のプロジェクトや映画を通じて、どのように向き合ってほしいと考えていますか?
柳井:移民や難民という言葉だけを聞くと、どうしても遠い話のように感じてしまいがちですが、実はすでに私たちの生活のすぐ近くにある問題だと思っています。例えば都内のコンビニに行けば、海外出身のスタッフの方々が当たり前のように働いていますよね。日本で生まれ育ったわけではない方々が、私たちと同じ社会の中で働き、関係性を築いている。それは特定技能や研修制度など、いわゆる難民とは別の制度かもしれませんが、現実として多様な国籍の方々が日本の社会システムの中で生活している状況がすでにある。気づいているかどうか、意識しているかどうかは別として、そうした現象は起きています。だから決して遠い世界の話ではない、ということをまず感じていただけたらと思います。難民の方々は、ある日突然、自分の意思とは関係なく、それまで暮らしていた場所や国を離れざるを得ない状況に置かれています。ただ、そうした住み慣れた場所を失うという経験そのものは、決して海外だけの出来事とは言い切れないのではないかとも感じています。難民問題にも明るい劇作家・演出家の平田オリザさんとお話をさせて頂いた時に、日本も地震や津波などの自然災害が多い国。本来そこで生まれ育ち、暮らし続けるはずだった場所に戻れなくなった方々が数多くいらっしゃる。もちろん背景や事情はそれぞれ異なりますが、「突然生活の基盤を失う」という点においては、難民と重なる部分があるのではないか。というお話を聞きました。もし、明日首都直下型地震のような災害が起きれば、自分自身が住み慣れた場所を離れざるを得なくなる可能性もゼロではありません。そう考えると、難民問題は決して遠い世界の話ではなく、少し視点を変えれば身近なテーマとして捉えることもできるのではないかと思っています。


















