『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』なぜヒット? “ショートアニメ劇場化”の成功例に

劇場版『ミルキー☆サブウェイ』なぜヒット?

『ミルサブ』のショートアニメならではの醍醐味

 今回の『ミルサブ』劇場版のヒットも、基本的には以上のような文脈の延長上にあるのは確かだろう。

 私の見るところ、『ミルサブ』は、その舞台設定や演出にショートアニメならではの特性を踏まえたさまざまな工夫が凝らされており、ひるがえって、それが今回の総集編としての劇場アニメ化にもうまく繋げられていたように思う。

 あらためてストーリーを簡単に確認しよう。物語の舞台は、宇宙空間での過酷な環境に耐えられるよう遺伝子組換えした「強化人間」と普通の人間、そしてサイボーグが共存する架空の地球外世界。銀河道路交通法違反により逮捕された強化人間のチハル(声:寺澤百花)とサイボーグのマキナ(声:永瀬アンナ)は、警察官のリョーコ(声:小松未可子)から同様に逮捕された仲間たちとともに、奉仕活動として惑星間走行列車「ミルキー☆サブウェイ」内の清掃を命じられる。しかし、清掃中にマキナの不注意で、列車が誤発進し、彼らはそのまま暴走列車に閉じ込められたまま、宇宙空間に飛び立ってしまう。

 まず、本作で注目されるのは、数分の断片化したエピソードが羅列するショートアニメ連作の特性を活かしつつ、エンタメとしてのわかりやすい趣向を凝らしたバランスのいい数々の演出である。

 例えば、本作は第1話「出発進行」の冒頭(劇場版ではオープニング)で、いきなり物語の結末から描かれる。それ以降も、ところどころで「30分後」や「列車暴走14時間前」などのテロップが画面いっぱいに登場し、物語の時系列が行きつ戻りつし、極端に錯綜した構成を持っている。

 クエンティン・タランティーノの映画を思わせるこの構成は、総集編の劇場版でも変わらない。こうした時間軸や時系列がバラバラに断片化して配置されているタイプの映画を、2000年代以降の海外の映画批評では「パズルフィルム」と呼んだりする(拙著『明るい映画、暗い映画』、170ページ以下を参照のこと)。このパズルフィルムの趣向は、映画館ではなく、早送り/早戻しや倍速機能を駆使しながら視聴できるDVDや配信での鑑賞を念頭に置いたコンセプトだとしばしば説明される。その意味では、この『ミルサブ』のパズルフィルム的な語り口も、YouTube上で断片的に視聴される各3分半のショートアニメの特性に重なるところがある。

 ただ、重要なのは、そうした語り口を持ちながらも、作者の亀山が、それを「列車」を舞台装置とした物語に設定したことだろう。単純にパズルフィルム的な構成にしてしまうと、ストーリー展開が極端にわかりづらくなり、それこそタランティーノやクリストファー・ノーランの映画のように、広く一般向けのエンタメにはなりにくい場合がある。

 ところが、「列車」という舞台装置は、まさに日本の歴代映画興収第1位を記録した『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020年)がそうだったように、主人公たちの企図=目的と列車の終着点がぴったり重なり、物語にクリアな一貫性=連続性を付与する。『ミルサブ』にしても、一方でショートアニメ的な語りの複雑さを備えつつ、他方では、「暴走発進した列車がいかに無事に戻れるか」という、物語論でいう典型的な「往きて還りし物語」の枠組みを取っており、誰が見ても瞬時に理解できる。この形式と内容のちょうどいいバランスが、本作のヒットに関係しているはずだ。

自主制作アニメーション『ミルキー☆ハイウェイ』予告

 また、本作の演出でもう一つ特徴的なのは、なんといっても、専門学校バンタンゲームアカデミーの卒業制作として作られた前作『ミルキー☆ハイウェイ』(2022年)から一貫して採用された、プレスコによる、キャラクターたちの自然な若者口語体の台詞回しだろう。

 プレスコとは、映像を観ながら台詞を当てる「アフレコ」ではなく、映像制作の前に台詞や音声の収録を行う手法のこと。この制作方法により、『ミルサブ』では、例えば宮藤官九郎のゼロ年代のテレビドラマのように、通常の日本アニメっぽい台詞回しや会話劇とは異なり、言い淀みや繰り返し、あるいは発語の重なり、また台詞を間違えて噛んだところもあえてそのまま残している。

 それゆえ、まるで実際の若者がわちゃわちゃ喋っているような独特の魅力を発揮しているのである。しかも、『ミルサブ』の台詞回しは速い。1つのシーンで複数のキャラクターが、畳み掛けるような速さであちこちでぼやいたり、相手に突っ込んだりしている。

 この会話劇も、かつて映画研究者・批評家の北村匡平氏が指摘したように、「移動中の視聴や「ながら観」することも少なくない現代において、画で視覚的に物語を語るより、[…]画面を注視していなくとも聴覚的要素で物語が伝わるように設計したり」(『24フレームの映画学』、271ページ)する昨今の映像文化の趨勢にはっきりと棹さしている。しかも、このスピーディで冗長な会話劇は――亀山監督の意図はともかく――いわゆる「倍速視聴」という昨今よく言われるコンテンツ消費のあり方へのカウンターにもなっているように思う。

 例えば、以前、私との私的な会話の中で『モルカー』の見里監督が言っていたことが印象に残っている。見里監督によれば、『モルカー』を視聴者が観ている時に、作者としてはスキップや倍速視聴されたくないので、たった2分半のエピソードの中で無理にでも起承転結のあるストーリーやいろいろな小ネタも入れて、スキップや倍速をすると絶対に物語の内容がわからなくなるように細かい工夫をしたのだという。それでいうと、『ミルサブ』のこの会話劇も、同様にスキップや倍速をすると作品自体の面白さが半減してしまうと言えるだろう。

 また、これも『モルカー』や『タローマン』と同じく、80年代カルチャーを髣髴とさせるガジェットや楽曲、最終話「マキナ死す」に象徴されるオタク心をくすぐる絶妙な小ネタ、そして特定の女性ファンを惹きつけるカート(声:内山昂輝)とマックス(声:山谷祥生)の掛け合い……など、SNSでバズりやすい仕掛けを入れ込んでいるところも、近年のショートアニメのセオリーをふんだんに踏襲しているのだ。

劇場版ならではの魅力

 さて、そんなふうに動画・配信文化に最適化したショートアニメとしての『ミルサブ』は、今回、映画館での劇場展開にもうまく繋げられていると感じた。

 まず、現在の映画館での鑑賞体験にひとびとが求める要素は大きく2つ。1つは、巨大なスクリーンのハイクオリティな映像と音響で作品をじっくりと凝視し、味わうプレミア感。そしてもう1つは、先ほども記した通り、コンサートや舞台のようにかけがえのない時間と場所を自分以外のひとびとと共有し、一体化するライブイベント感だ。

 それでいうと、『ミルサブ』は画面のディテールや小ネタにまでこだわった高品質な映像作りで成り立っており、シネコンの大画面の鑑賞でも十分耐えられるどころか、あらためて細部までじっくり堪能できる作品になっている。また、例の賑やかで冗長な会話劇も、「ながら観」(ながら聴き)では聴き落としてしまうような一語一語の台詞の面白さをたっぷり味わえる。

 そして、これも先ほど挙げた鼎談で話題に上ったように、「すでに知っているものを(少し違った形で)見たい」という文化的感性の台頭に、今回の劇場版もマッチしている。近年、テレビアニメの総集編劇場版や先行上映、また過去の名作のリマスター上映がブームである。ここには、まったく新しい知らないものを観て失敗するよりは、すでに価値が確定しているコンテンツをなぞりたいという若い世代の感覚が影響していると考えられる。ここでも世は「コスパ重視」なわけだ。『ミルサブ』の劇場版もこれに当てはまる。しかも、ファンにとってはすでにYouTubeで観ているエピソードに、アサミ(声:小野賢章)とハガ(声:ロバート・ウォーターマン)という新キャラが登場する追加シーンも加味されるということで、既知と未知のバランスがちょうどよく按配されている。

 そして、46分という、劇場アニメとしては相対的な尺の短さも非常に重要だろう。同様に、個人制作に近い作りで異例の大ヒットを記録した『ルックバック』(2024年)もそうだったように、ショート動画の視聴に慣れきった現代人にとっては、スクリーンで快適に鑑賞できる長さだと言える。

 さらに何より、本作はわいわい客席で盛り上がって観るイベント型の鑑賞に向いているだろう。実際、劇場によっては発声&応援OKの「発声よし、出発進行上映」も実施されており大盛況だという。

 私は都内の劇場に通常の上映を観に行ったが、客席は20、30代の学生やカップルが多かった。そして、上映終了後、席を立たないうちから彼らがチハルとマキナのように、作品の感想を楽しそうにわいわい言い合う姿が実に印象的だった。『ミルサブ』の劇場版は、YouTubeなら1人で楽しむ視聴体験を、友人や恋人とともに共有して楽しむ鑑賞体験へと開き、作品の魅力をより広げることに成功していると感じた。

 ショートアニメの劇場展開が今後もしばらく続きそうだが、ショートアニメと劇場アニメ双方の特性を個々に活かしつつ、相乗効果で鑑賞体験を広げている『ミルサブ』の例は、そのよい指標になりうるような気がしている。

参照
※1. https://realsound.jp/movie/2025/12/post-2262953.html
※2. https://realsound.jp/movie/2019/09/post-416618.html

■公開情報
『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ 各駅停車劇場行き』
公開中
キャスト:寺澤百花(チハル役)、永瀬アンナ(マキナ役)、小松未可子(リョーコ役)、金元寿子(アカネ役)、小市眞琴(カナタ役)、内山昂輝(カート役)、山谷祥生(マックス役)、藤原由林(O.T.A.M.役)、小野賢章(アサミ役)、ロバート・ウォーターマン(ハガ役)
原作・監督・脚本・キャラクターデザイン・音響監督・制作:亀山陽平
企画制作:シンエイ動画
製作:タイタン工業
主題歌:キャンディーズ「銀河系まで飛んで行け!」
挿入歌:水無瀬ミナミ(CV.田村ゆかり)「ときめき★メテオストライク」
プロモーション楽曲:MindaRyn「Altair and Vega」
配給:バンダイナムコフィルムワークス
©亀山陽平/タイタン工業
公式サイト:milkygalacticuniverse.com
公式X(旧Twitter):@MGUJapan
公式Instagram:@milkygalacticuniverse
公式TikTok:@milkygalacticuniverse
公式YouTubeチャンネル: @milkygalacticuniverse

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