シリーズの枠を超えたジャンルそのものに 『13日の金曜日』の“原点”としての存在価値

“ジャンル”としての『13日の金曜日』

 音楽のハリー・マンフレディーニが、『ジョーズ』(1975年)の音楽をヒントに作り上げたという、印象的な「キ、キ、キ、マ、マ、マ」という奇妙な効果音は、本作から生まれている。これは、「Kill(キル)」「Mommy(マミー)」という2語が元となっていて、「殺して、ママ!」という、隠れたメッセージを示すものだ。こういう小ネタが仕込まれている点は、全体的には大味とはいえ、本作にクリエイティブな熱が流れていることを示している。

 他にも本作で重要な役割を果たしたのが、特殊効果、特殊メイクアップアーティストのトム・サヴィーニである。アメリカのホラー映画界になくてはならない存在になっていった彼は、この時点でもすでに『ゾンビ』(1978年)の特殊効果を手掛けていた。本作では、とくに若き日のケヴィン・ベーコンが演じる青年が残忍に喉を突き破られる場面での仕事がお気に入りだと回想している。(※2)

 本作といえば、事件が全て終わったかと思いきや、唐突に起こる“あるサプライズ”が、何よりも印象に残る。サヴィーニは、その、まさに“命”となるようなアイデアも自分が提案したと語っている。このシーンからラストまでの流れは、即物的だった本作の内容とは異なる雰囲気に包まれる。

『13日の金曜日』写真:Everett Collection/アフロ

 鏡面のように森の木々を映し出す“クリスタル・レイク”の美しさと、そこで起こる地獄のような悪夢的光景……。スリラー映画の金字塔である『サイコ』(1960年)を思い出すほどに、見事な流れを見せるのだ。本作が提供した、この体験があるからこそ、観客は“何か凄いものを見た”という興奮のまま、劇場を出ることができたのだ。

 この後、『13日の金曜日』はシリーズ化され、多くの続編が作られた。シリーズの象徴的な存在である“ジェイソン”は、そこから脚光を浴びていったのだ。しかし、サヴィーニが続編の一部にタッチしたものの、基本的にはショーン・S・カニンガム監督、トム・サヴィーニといった重要な存在は、続編企画からは離脱していった。

 それは、“ジェイソンが生きていた”という展開を希望した映画会社の路線に、ついていけなかったからでもあったようだ。そもそもジェイソンは、湖で死んだ子どもであり、本作ではそれを悪夢や事件の影響として映し出しただけであった。だからこそ、そこに「キ、キ、キ、マ、マ、マ」の“恐怖”が存在していたのだ。「ジェイソンは溺死を逃れたのに母親にも会わず、湖周辺でザリガニを食べながら生きていたのか?」とサヴィーニが言うように、第1作の設定がギャグのようになってしまう可能性もある。2人が興味をなくしたのも無理はないだろう。

 しかし、シリーズは次々にヒットしていった。本作が作り上げた、キャンプ場で若者たちが殺害されていくという設定そのものは、少ない予算でも撮れることから、ヒットを狙う後発のクリエイターたちが貪欲に模倣していき、類似作品が非常に増えることにもなった。そうした数々の試みにより、この『13日の金曜日』のスタイルは、シリーズの枠を超えたジャンルそのものとして認知され、原点としての存在価値を獲得したのである。

 『キャビン』(2011年)や、『ファイナル・ガール』(2015年)といった、近年のホラー映画は、まさにその構造そのものを解体し、ポストモダン的に再構築した内容であった。本作が元となったジャンルは、人気のなかで記号化や陳腐化を経て、ついに一つの文化人類学的な価値を持って引用されることになったのだ。本作がミュージアムに展示されてもおかしくないような象徴的な存在になることを、公開当時予見できていた者がいただろうか。

 そんな現代を生きている我々は、『モナ・リザ』がそうであるように、『13日の金曜日』を文化的な文脈から外し、新鮮な目で観ることは難しいかもしれない。しかし一方で、だからこそ我々は、新たな視点から本作を解釈し、自分の時代から新たな解釈を加えることも可能だといえる。映画は媒体の特性上、タイムマシンのように我々の意識を過去に運ぶような錯覚を与えるときもあるが、いまの自分の考え方や知識までをも変質させることはできない。だからこそ、過去のタイトルを観ることは、スリリングな体験なのだ。

参考
※1. https://www.rogerebert.com/reviews/friday-the-13th-part-2-1981
※2. https://fridaythe13thfilms.com/exclusive-interview-tom-savini/

■公開情報
『13日の金曜日』 
シネマート新宿にて2週間限定上映中
出演:ベッツィ・パルマー、エイドリアン・キング、ハリー・クロスビー、ケヴィン・ベーコン
監督:ショーン・S・カニンガム
撮影:バリー・エイブラムス
音楽:ハリー・マンフレディーニ
1980年/95分/アメリカ
写真:Everett Collection/アフロ

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