『ばけばけ』が描く2人のヒロインの明暗 シンデレラのその後にある“リアルな残酷”

『ばけばけ』が描く2人のヒロインの明暗

 そうして光が強まれば、影もまた濃くなる。影となったのは、トキの幼なじみ・野津サワ(円井わん)だ。サワは、学校にも行けなかったトキよりは「少しまし」な生活を送り、病身の母を支えながら小学校の臨時教員となった女性である。教員の給金は4円で、女中時代のトキに比べても5分の1だった。その時点ですでにサワの胸には「もやもや」があったはずだが、トキがヘブンと結婚し、川の向こうのお屋敷側へ行ってしまったことで、その感情はもっとどす黒いものになっていく。祝いの花束を手にトキの新居を訪れたものの、玄関に飾られた立派な生花を目にし、花束を捨てて立ち去ってしまう。それ以降は、居留守を使うほどにトキを避けるようになる。

 サワはムキになったかのように、正規の教員を目指して日々勉学に勤しむ。そこへ現れたのが、帝大卒の庄田多吉(濱正悟)だ。優秀でありながら謙虚な好青年である庄田に勉強を教わるうちに「いい感じ」になり、トキの後押しもあって、庄田はサワに求婚する。またもやもう一人のシンデレラ誕生かと思いきや、サワは「おトキにはなれん」と、その求婚を断ってしまう。以前、もう一人の友人で遊女だったなみ(さとうほなみ)が言うように、「結局、女は身を売るか、男にもらわれるしかない」時代、女性が這い上がるには結婚しかなかったはずだ。それでもサワは、結婚を貧困からの抜け道にはしなかった。

 制作統括の橋爪國臣は、サワを「アナザートキ」だと語る。「トキにもサワのような人生があったかもしれないし、逆にサワにもトキのような人生があったかもしれない。二人は対になっている存在。トキはシンデレラですが、自分が何かを成し遂げたかといえば、そうではない。一方サワは、トキが近くにいるからこそ“自分はそうじゃない”という呪縛にかかっているんです」(※1)

 トキとサワは、現代的に言えば、専業主婦とキャリアウーマンを選んだ二人の女性だといえるだろう。しかし、どちらが幸せなのかは、当の女性自身にも簡単にはわからない。もしかすると、どちらもやりたいのが本音であり、その葛藤は二人の人物に分けて描くしかないということなのかもしれない。

 脚本家のふじきみつ彦は、「(ヘブンのモデルである)小泉八雲さんが“オープンマインド”と言っていますが、自分が、自分がと正義を振りかざすのではなく、心を開いていく姿を描けたら」(※2)とも語っている。現実世界でも、自分とは違う生き方を選んだ人を一方的に妬んだり、あるいは蔑んだりして、「もやもや」することは少なくない。けれど、何が正解で何が間違いなのかは、どの立場から見るかにもよる。それぞれに天国と地獄があり、今は幸せなシンデレラの物語にも続きがある。オープンマインドで物語を見届けたい。

参照
※1. https://realsound.jp/movie/2026/01/post-2291962.html
※2. https://diamond.jp/articles/-/377074

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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