劇場版『虎に翼』に求められるものとは? 特別な朝ドラが“映画”だからこそ描けるもの

伊藤沙莉が主演を務め、日本中を熱狂させたNHK連続テレビ小説『虎に翼』。放送終了後も根強いファンに愛され続ける本作が、2027年に完全オリジナルストーリーで映画化されることが決定した。
連続テレビ小説からの映画化は『すずらん』以来27年ぶりであり、ドラマから主演キャストが続投しての映画化は史上初となる。脚本はドラマに引き続き吉田恵里香が担当し、主人公・寅子(伊藤沙莉)が挑む“最後の事件”が描かれるという。果たして、朝ドラという長大な枠組みを超え、映画というフォーマットで『虎に翼』はどう生まれ変わるのか。ドラマ評論家の成馬零一氏は、今回の映画化決定の報を受け、その構造をある伝説的な刑事ドラマと比較して分析する。
「今回の映画化の話を聞いて、まず頭に浮かんだのは『踊る大捜査戦』(フジテレビ系)との類似性です。シリーズもののスピンオフや続編が作られ、最終的に劇場版で完結するという流れは、『踊る大捜査線』から現在も続いているテレビドラマの成功パターンです。ただ、朝ドラでそれをやるのかという驚きはありました。過去にも『藍より青く』や『おしん』が映画化されていますが、キャストや制作スタッフは別の布陣となりましたし、『すずらん』も幼少期のエピソードを補完する外伝的なものでした。対して、『虎に翼』はキャスト・スタッフが続投し、ストーリーも地続きの完結編的となりそうで、朝ドラからの流れと作品の世界観を作り手がすごく大事にしているという印象です。何よりこの映画化は、リーガルドラマという強固な軸があるからこそ成立したのだと思います。日常の延長線上にある物語を描くのであれば、テレビシリーズが適していますが、裁判や事件は単発のドラマや映画にしやすいので、一本の映画として勝負できる強度に仕上がるのではないかと期待しています」
映画化決定の第一報では、ドラマ版では描ききれなかった「空白の時間」が埋められることが示唆されているが、成馬氏はそれが日本の戦後史における重要な転換点になるのではないかと予測する。
「戦前・戦後の歴史をフェミニズムやマイノリティの視点から捉え直した独自の歴史観が『虎に翼』の面白さだったと思います。だから歴史の隙間を埋めたくなるし、その後の物語についても想像して、あの事件や出来事を『虎に翼』ならどう描くかと想像したくなる。ロボットアニメ『機動戦士ガンダム』シリーズにおける宇宙世紀のような、深堀したくなる奥行きがある世界観だと思います。ただ、ドラマ後半は、物語が駆け足になってしまい、1968年から1972年頃、いわゆる全共闘運動や三島由紀夫事件があった時期の描写は薄くなってしまった。ドラマでは片岡凜さんが演じた森口美佐江の物語が少年犯罪を語るエピソードとして触れられましたが、背景へと退いてしまった感は否めません。個人的に美佐江はとても重要なキャラクターだと思っていて、吉田恵里香さんの次回作となったアニメ『前橋ウィッチーズ』では『虎に翼』終盤で描けなかった美佐江のエピソードを、現代を舞台に語り直しているようなところがあった。ですので、もし映画で、再び日本の戦後史を捉え直すのであれば、この高度経済成長の裏で挫折していった社会運動や、政治の季節の終わりを、寅子たちがどう生きたかを描く絶好の機会になるはずです。それは、ドラマ版が積み残した大きなテーマだと思います。ですので、何らかの形で美佐江と寅子の思想的対決の決着を描いてほしいですね」
一方で、社会現象となるほど高い評価を得た本作だからこそ、映画化にあたっての課題もあると成馬氏は指摘する。ドラマ後半で顕著になった「社会正義」と「物語」のバランスをどう取るかが、映画の成否を分ける鍵になりそうだ。
「東日本大震災を一つの契機に、2010年代から野木亜紀子さん脚本作などの“社会派ドラマ”が少しずつ増えていきました。『虎に翼』はそんな社会派ドラマのひとつの到達点ともいえる作品ですが、一方で後半になるにつれ、社会問題を扱うためのツールとしての側面が強くなりすぎてしまったきらいもありました。現在の視点から見ると、あまりに“正しさ”を追求しすぎた結果、物語としての強度が揺らいで見える瞬間もあった。だからこそ映画版では、一度“社会派ドラマ”としての重圧から少し離れ、シンプルに“裁判もの”としてのエンターテインメント作品に回帰してもいいのかもしれません。イデオロギーや構造的な差別だけでなく、こぼれ落ちてしまった“普通の人々の等身大の悩みや鬱屈”に向き合った事件を描くことで、テレビシリーズとはまた違った魅力が生まれるのではないでしょうか」
ドラマ放送時は、SNSでの反響や「はて?」という言葉が社会現象を巻き起こした。しかし、映画が公開される2027年には、また違った社会状況が待っているだろう。成馬氏は、その未来を見据えてこう期待を寄せる。
「2027年の日本がどうなっているかは誰にもわかりません。だからこそ、今このタイミングで『虎に翼』が再び作られる意味は大きい。ドラマ版が提示した理想や正しさが、数年後の社会でどう響くのか。吉田恵里香さんの脚本と梛川善郎監督の演出が、映画という閉じた尺の中で、フィクションとしての強度をどこまで高められるか。寅子たちの“最後の事件”が、単なる同窓会的なファンムービーではなく、2027年の観客の心に突き刺さる独立した作品になることを期待しています」
寅子が挑む最後の事件、そしてドラマでは語られなかった空白の物語。2027年のスクリーンで、私たちはまた新たな「はて?」に出会うことになりそうだ。
■公開情報
劇場版『虎に翼』
2027年全国公開
出演:伊藤沙莉
監督:梛川善郎
脚本:吉田恵里香
音楽:森優太
企画・プロデュース:尾崎裕和
プロデューサー:稲田秀樹、姫野芙美
配給:東宝
©2027 劇場版「虎に翼」製作委員会
公式X(旧Twitter):https://x.com/toratsuba_movie
公式Instagram:https://www.instagram.com/toratsuba_movie
























