脚本家・吉田恵里香が『虎に翼』に込めた願い 憲法第14条は「私たちにとってもすごく大事」

吉田恵里香が『虎に翼』に込めた願い

 NHK連続テレビ小説『虎に翼』が最終回まで残りわずかとなった。第1回から主人公・寅子(伊藤沙莉)をはじめ、魅力的なキャラクターたちが放つ言葉の数々に背中を押され、救われた視聴者が多かったことだろう。ドラマの舞台となった昭和初期から現在まで変わらないもの、変わり続けるもの、まさに地続きの問題をエンターテインメントとして見事に物語に昇華したのが脚本家・吉田恵里香だ。朝ドラという半年間にわたり放送される枠組みの中で、彼女は作品にどんな思いを込めていたのか。全話の脚本を書き終えた後に、じっくりと話を聞いた。

「当時からいた人をきちんと描きたい」という思い

――『虎に翼』の脚本を脱稿された際のお気持ちは?

吉田恵里香(以下、吉田):後半の脚本を執筆しているときから、「終わってしまうな」という気持ちがすごくあって。「終わらないでほしい」という思いと、「やっと最後まで書き切った」という思いでしたが、とにかく最後までずっと楽しく書けました。本当に役者さん、スタッフさん含め、すごく恵まれた現場だったので、「もうワンクールくらい書けたらよかったな」とも思いますね。やり切って満足したけれど、それぞれの人物についてもうちょっと深掘りできたな、という気持ちもあるので、あと3カ月くらいあってもよかったなと思っています。

――たとえば、どんなところを描きたかったのでしょうか?

吉田:一人ひとりに描けなかったエピソードがたくさんあって、最終回には「第1、2週に出てきた人がどうなったのか」といった振り返りを入れるつもりだったんです。「女子部時代に入らなかったエピソードも回想で入れられるかなぁ」とか甘い考えをしていたんですが(笑)、構成上やらなくてはいけないことがいっぱいで、書けなかったものがたくさんありました。

――ドラマの終盤に「カーテンコールのようにこれまでの登場人物を出したい」といった意味合いも?

吉田:第1話から観てくれている人に「ありがとう」の気持ちを伝えたかったんです。自分が視聴者のときに、そのシーンがあると嬉しいので。でも、お話が最終回までかなりぎゅうぎゅうに詰まってしまって、それもまた『虎に翼』らしいかなと思っています(笑)。

――三淵嘉子さんをモデルにした物語の中心に、なぜ憲法14条(法の下の平等)を持ってきたのか、吉田さんの思いを聞かせてください。

吉田:三淵さんがモデルと聞いてから、初めて日本国憲法を最初から最後まで読みまして。人によって響くところは違うと思いますが、私は「14条」だったというのが大きいです。これが公布されたら、当時の方は宝物のように感動するだろうなと思いましたし、今の私たちにとってもすごく大事なことだけど、「本当に果たされているかな」「ちょっと横に置かれていないかな」と。「14条だけでも覚えて帰ってください」ではないですけど(笑)、14条だけでも思い出してください、という気持ちがありました。14条を最後まで扱ったのは自分でも予想外でしたが、話を書いているとそこに戻ってきてしまうんですよね。人らしく生きるための根底というか、本当にスタートラインなんじゃないかと思うので、せめてこれだけでも守られる世の中になったらいいな、という願いを込めて書きました。

――山田轟法律事務所の壁に第14条を書くアイデアは、吉田さん発案ですか?

吉田:私は「紙が壁に貼ってある」と書いたので、まさか壁に書くとは! と思いました(笑)。でも、たしかに「よねなら書くかも」と思ったので、すごくいい演出だなと思いましたね。あれがずっと残っていることで象徴として使われていますし、すごく好きな美術です。

――昭和30年代を舞台に夫婦別姓やLGBTQについても描かれていますが、そのようなテーマを盛り込んだ背景を教えてください。

吉田:昔に比べれば良くなっていても、まだ数が少なかったり、周知されていないことによって、平等とはいえない扱いをされる方がたくさんいる。その状況は令和の今、始まったわけではなくて、調べれば調べるほど、もっともっと昔から……それこそ寅子たちが生きている時代、さらに言えば寅子が生まれる前から存在したことばかりなんですよね。大半の方々が意図的なのか、無意識なのか、当時は見ないようにしてきたことをちゃんと見せることに意味がある。「当時からいた人をきちんと描きたい」という思いが強かったので、結果的にこういう形になりました。法律ものですし、寅子が出会う人たちを描けば普通に通る道かなと思っていたので、“挑戦的な作品”とか“尖った作品”とか、そういうつもりでは書いていないです。

――視聴者の方には、どう受け取ってほしいですか?

吉田:朝ドラにセクシュアルマイノリティの方や外国の方が出たことで、何か思われたりする方もいるのかなとは思いますが、歴史を調べれば出てくるものがたくさんありますし、そのときに浮かんだ気持ちに正直でいいと思っています。伝え方が難しいですけど、この問題が70年以上経った今も、基本的にあまり変わっていないということに「どうしてなのかな?」などと思いを馳せていただけたら嬉しいです。

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