『ばけばけ』“引越し祝い”で浮かび上がる日本の独自性 光の演出が表現するヘブンの心模様

『ばけばけ』日本の引越し祝いにヘブン困惑?

 新聞記者の梶谷(岩崎う大)の書いた記事により、トキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)が来客の対応に追われるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第73話。そんな中で次第にヘブンの態度がなんだかよそよそしくなってくる。

 引越し祝いはもともと、引越し疲れを労うため、またその家族の新しい門出を祝うために親しい人が祝いの品を送るという古くからある習慣。ヘブンの家ほど大々的にやるものでもないが、新聞記事になってしまったことで、お祝いの気持ちもあるが“異人さんを一目見たい”という好奇心を押さえられない人々が連日、家の前で長蛇の列を作っていた。

 さらにここで訪れた相手のお祝いの気持ちを、ありがたく受け取る姿勢を見せることも大切。「引越し祝いなんていらない」ときっぱり断ってしまうと今後の近所付き合いに関わってくる。“周囲との調和”を大事にする日本人らしい感覚がこの一場面には詰まっている。

 慣れない正座で、聞き取りづらい日本語に受け答えし、明るく笑う。“引越し祝い行列”に対応しているヘブンが、このような日本の習慣を受け入れようと無理をしているのは誰の目にも明らかだった。知事の江藤(佐野史郎)からは下駄を贈られるが、ヘブンはそれを履いてうまく立ち上がることができない。きっと長い正座で足がしびれてしまったのだろう。でも心配をかけたくないという気持ちからか、「タチクラミ!」とすぐにわかる日本語で返してしまう。実際は正座のしびれよりも立ちくらみのほうが深刻だ。実情がしっかり伝えられないばっかりに特にトキに心配をかけてしまっていることは、ヘブンも肌で感じていたことだろう。

 何気ないがヘブンの家での光の演出も素晴らしい。ヘブンが中学校で英語を教えてから帰宅し、“引越し祝い行列”が続く玄関先は夕陽の柔らかなオレンジの光で包まれ、子どもたちににこやかに対応するヘブンも表情も優しい。一方で彼らがいなくなり、夕餉の時間となると家の中は仄暗い。ヘブンの口数もめっきり少なくなり、魚やシジミの実をちまちま取るところがフォーカスされる。ずっとドラマを観ている視聴者はわかるだろうが、家の中のほうが本来のヘブンの姿だ。光の変化は、時間の流れを演出しつつ、ヘブンの心のうちも表現している。


 訪問客が増えていくある日、ヘブンは予定の時間を過ぎても家に帰ってこなかった。探しに行ったトキが聞くと錦織(吉沢亮)と教育について熱い議論を交わしていたらしい。その次の日も、トキはヘブンからまた錦織と議論を交わすため遅くなると伝えられるがそのときのヘブンの顔も、錦織の受け答えもなんだかパッとしない。

 中学校へ向かう人力車の上では錦織とヘブンの秘密の会話が繰り広げられる。家族以外で、言葉を尽くさなくても、今この瞬間の素直な気持ちを理解してくれる人がそばにいることがどれほど嬉しく温かいことか。錦織の言葉を聞き、ふっと肩の力を抜き微笑んだヘブンの姿に少し安心できた。

 そして、やや不穏な空気を感じられてもユーモアを忘れないのが『ばけばけ』らしさ。「不器用ですから!」が口癖の車夫・永見(大西信満)が寡黙になれずにしっかり真のヘブンの居場所をトキに話したことで、事態は大きく動き出しそうだ。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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