松山ケンイチ×小林虎之介の熱演に痺れる 『テミスの不確かな法廷』が向き合う“わからなさ”

大切な人を失っても、遺された人の人生は続いていく。卓郎が大切な人を失った世界で、これからも生き続けていくために必要なよすがを与えた安堂の「わからないことをわかっていないと、わからないことはわかりません」という台詞が印象的だった。本作は、制作統括の神林伸太郎、チーフ演出の吉川久岳ら『宙わたる教室』のスタッフが手がけている。同作では研究者でもある一人の教師によって導かれた、定時制高校の生徒たちの「知りたい」という知的好奇心によって新たな科学の扉が開かれていく様が描かれていた。わからないことをわかろうとする。その手前にもう一つ、大事な過程がある。それは、「わからない」ということを認め、その「わからなさ」に向き合うことだ。
わからないことは、怖い。自分とは圧倒的に“何か”が違う人に出会ったときもそうだ。恐ろしさから、人は相手を自分の「常識」や「普通」に引きずり込み、矯正しようとする。前橋地裁第一支部の門倉(遠藤憲一)や落合(恒松祐里)も安堂の言動に戸惑い、苦言を呈した。それでも相手を抑え付けられないと思ったとき、裁判官忌避を申し立てようとした小野崎のように、人は排除に動き出すのではないだろうか。

一方で、安堂にとって「わからないこと」に出会うのは日常茶飯事だ。だからこそ、安堂は発達障害と診断された日から、精神科医の山路(和久井映見)と大多数の人にとっての「常識」や「普通」を学び、社会に馴染もうとしてきた。そうやってずっと「わからなさ」に向き合ってきたからこそ、安堂は卓郎の心にもアクセスできたのだろう。逆に松山ケンイチは、発達障害のある人たちが集まって意見を交わすグループケアへの参加や、スタッフとの意見交換をもとに、安堂の「常識」や「普通」に入り込もうとしている。その役を理解しようとする姿勢は、単なる付け焼き刃ではない芝居に表れているように思う。
安堂に限らず、誰もが多かれ少なかれ、世の中の「常識」や「普通」にフィットしない、“宇宙人たる部分”を隠しながら生きている。冒頭、コンクリートに落ちていたタンポポの綿毛を道脇の花壇に移動しようとした安堂が、同級生にからかわれた過去を思い出してやめるシーンがあった。もし周囲と違うことを揶揄されない社会であったならば、安堂の優しさによって咲くはずだったタンポポがあることを忘れないでいたい。

「わからなさ」に向き合うことが新たな未来を創造し、ときに誰かを救う。実際、安堂は有罪率99.9%とされる刑事裁判ですでに2回の無罪判決を出しており、罪なき人が裁かれる事態を回避している。そんな異端の裁判官とも言える安堂の裏では、さまざまな思惑が渦巻いていそうだ。茂原を排除するために安堂の裁判を利用した執行官の津村(市川実日子)、再審を求める動きがある前橋一家殺人事件で被告人に死刑を求刑した検事の結城(小木茂光)が、今後の物語にどう関わってくるかにも注目していきたい。
■放送情報
ドラマ10『テミスの不確かな法廷』
NHK総合にて、毎週火曜22:00~22:45放送(全8回)
※毎週木曜24:35〜25:20再放送
NHK ONE(新NHKプラス)で同時・見逃し配信予定
出演:松山ケンイチ、鳴海唯、恒松祐里、山崎樹範、山田真歩、葉山奨之、小木茂光、入山法子、市川実日子、和久井映見、遠藤憲一 ほか
第1話ゲスト:小林虎之介
原作:直島翔『テミスの不確かな法廷』
脚本:浜田秀哉
音楽:jizue
演出:吉川久岳(ランプ)、山下和徳、相良健一、富澤昭文
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
写真提供=NHK























