『終幕のロンド』“樹”草彅剛が守った生者と死者の尊厳 公私の境界線を再定義する一作に

『終幕のロンド』樹が守った生者と死者の尊厳

 12月22日放送の『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』(カンテレ・フジテレビ系)最終話では、集団訴訟の結末と大人の恋の行方が描かれた。

 週刊誌報道で真琴(中村ゆり)との仲を報じられた樹(草彅剛)。勤務先の「Heaven’s Messenger」に苦情が相次ぎ、二人の住まいにはマスコミが押しかけた。責任を取って樹は辞表を提出し、集団訴訟の原告団から離脱した。

 互いへの思いをごまかすことができなくなり、そのことが周囲に波及して、予想外の展開をもたらした。それでも、陸(永瀬矢紘)と3人で過ごすひとときはかけがえのないもので、夜空の下で互いの思いを確かめる樹と真琴であった。

 一方、集団訴訟は窮地に立たされていた。藤崎(矢野聖人)が証人を辞退し、新社長の彩芽(月城かなと)に命じられた外山(石山順征)が文哉(米田惠亮)のデータを流出。また、静音(国仲涼子)が利人(要潤)にパソコンを返したことで、原告側は重要な証拠を失ってしまう。一方で、転職した海斗(塩野瑛久)は、勤務先の支店が自殺した社員の遺品の隠蔽をしていたことを知る。隠蔽マニュアルを手にした樹は、利人のもとへ向かった。

 最終的に経営者の良心に訴えかける決着となった最終話で浮かび上がったのが、故人の尊厳を守るというテーマだった。ドラマ後半で描かれた集団訴訟は、脚本の高橋美幸によれば「ご遺品のない遺品整理(※)」と位置付けられる。持ち去られた遺品を取り戻す戦いであり、樹の言葉には遺品整理人の矜持が込められていた。

「私たち遺品整理人の仕事は故人様の思いを受け止め、生きた証をご遺族様にお届けする最後の砦です」

 樹たちが守ろうとしてきたのは故人の尊厳で、その中心に一人ひとりの思いがあることは、これまでご覧になった視聴者は理解できるだろう。その上で、今作は「公」と「私」の間に線を引き直す意義があった。

 従前まで遺品整理は家族の仕事で、純粋に私的な領域の話だった。ドラマならホームドラマで扱われる題材だったはずだ。それが孤独死の増加や少子高齢化を背景に、専門業者の手に移った。集団訴訟になるケースも、個人と対企業の争いから社会的な問題に性格が変わったと考えることが可能だ。

 遺品整理が「私」から「公」へ移るのと軌を一にして、今作では、故人と遺品整理に関わる人々の関係性も揺れ動く。樹と真琴は、こはる(風吹ジュン)の生前整理を通じて距離を縮めた。

 樹の中には妻を失った悲しみがあり、真琴は母こはるとわだかまりを抱えていた。二人が、こはるの死と向き合う中で互いを必要とする過程は自然なものだが、同時に、私的な領域にタッチせざるを得ない遺品整理という仕事の難しさも示していた。

 御厨ホールディングスの人々も、単なるブラック企業の一員ではない。利人や彩芽は、それぞれが悩みを抱えながら、「公」と「私」の線引きに苦しんでいた。それでもなお、加害側に与してしまう巨大組織ならではの煩悶が透けて見えた。

 シンプルな主題を繰り返しながら、徐々に変奏を加えて、らせんを描くように一つの場所に戻る。タイトルの「ロンド」の形式にならえば、個人(故人)の尊厳を中心に、公私の両極を旋回し、生前整理から集団訴訟へ転調するのが今作だったといえないだろうか。

 現実には、磯部(中村雅俊)が言うように、究極的には「お互い様」であり、公私の区別はないのかもしれない。一方で、矛盾するようだが、世間が何と言っても、個人間の侵すことのできない聖域はある。それは責任を取るとか、社会的な正しさとは別の次元の話だ。

 死が公の領域になるほど、個人の領域は尊重されなければならない。生きている樹と真琴は、それを知っていたから、自分自身に正直でいることをやめなかったのではないか。ラストで描かれた再会は、自分たちの尊厳を守り抜いた証なのだろう。

参照
※ https://x.com/gNNsqK0o3O62151/status/2000516518044438988?s=20

『終幕のロンド ーもう二度と、会えないあなたにー』の画像

終幕のロンド ーもう二度と、会えないあなたにー

『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』の高橋美幸が脚本を手がけたヒューマンドラマ。遺品整理人である主人公が、遺品整理会社の仲間たちとともに、さまざまな事情を抱えた家族に寄り添っていく。

■配信情報
『終幕のロンド -もう二度と、会えないあなたに-』
TVer、FODにて配信中
出演:草彅剛、中村ゆり、八木莉可子、塩野瑛久、長井短、小澤竜心、石山順征、永瀬矢紘、要潤、国仲涼子、古川雄大、月城かなと、大島蓉子、小柳ルミ子、村上弘明、中村雅俊、風吹ジュン
脚本:高橋美幸
演出:宝来忠昭、洞功二
演出・プロデューサー:三宅喜重
プロデューサー:河西秀幸、三方祐人、阿部優香子
音楽:菅野祐悟
主題歌:千葉雄喜 「幸せってなに?」 (Warner Music Japan)
制作協力:ジニアス
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/shumaku-rondo/
公式X(旧Twitter):@shumaku_rondo
公式Instagram:@shumaku_rondo

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