2025年最後にイッキ見必至の韓国ドラマ Netflix『告白の代価』が突きつける社会の矛盾

『告白の代価』が突きつける社会の矛盾

 チョン・ドヨンはドラマが配信された後のインタビューで「二人の女性キャラにスポットが当たること自体が男性中心的で、残念」と、かつてよりは増えたとはいえ、やはり女性主人公が活躍する作品が少ないことでかえって注目される現状に苦言を呈した(※3)。先に挙げたようにユンスももちろん、モ・ウンもまた偏見に晒されている。嫌がらせを受けたことに反発し歯科医夫婦を殺害したモ・ウンを、世間は“魔女”と呼び、他人を悪魔化(Demonization)することで自分たちとは完全に違う存在だと決めつける。そうして背景を推し量ることを止めてしまえば、自分たちは安全だと安心できるからだ。アン・ユンス、そしてモ・ウン/カン・ソヘが持つ物語は、背景に社会の矛盾や構造的な問題を据えている。サスペンスでもありながら社会派ドラマの重厚さを持つ『告白の代価』はまさに、我々の持つ視野の狭さを撃つのだ。

 人は見たいものだけを見ようとし、読みたい物語どおりにしか出来事を読み取らない。結婚当初は仲睦まじかったものの助手との不貞関係に陥ったパートナーを、美しく妖艶な美術教師の妻が怒りのあまり殺害してしまったという愛憎劇。“魔女”とあだ名されるサイコパスによる凄惨な殺人事件という衝撃の実話。アン・ユンスとモ・ウンの弁護士たちのことも付け加えるなら、そんなふうに見捨てられた彼女たちを救おうとする人権派弁護士の成功譚。本作についてあらかじめ予想されていた“ストーリー”はそんなところだった。

 だからこそ、ギテがチン弁護士とその妻の3人の間に起きた、名誉やプライドをめぐる些細な諍いが発端という殺人事件の真相は、あまりにも呆気ない。我々が読みたいと思っていた物語の真相は思っていたよりも単純だった。逆に感情をすべて失い、モ・ウンとして生きることを選ばざるを得なかったカン・ソヘの物語は、誰も予想できないほど過酷で悲痛だった。巧妙なトリックや奇抜などんでん返しといった、ある種のサスペンスのクリシェを避けたこのドラマは、ラストで第1話の冒頭にあるユンスとギテの結婚式にさかのぼる。幼かったソヘ姉妹は、幸福な空間に誘われるようにしてその場を訪れ、ユンスに笑顔で祝福を送っている。そこには夫殺しの女性も、“魔女”もいない。むしろ、最初からそんなものはいなかったのだ。平穏そのもののこのラストはまるで我々の眼差しの曇りを暗に指摘しているように感じられて、思わずハッとするのだった。

参照
※1. https://www.chosun.com/entertainments/enter_general/2025/12/12/GMZWKNLEMY4DQY3GMNSGEM3DMM/
※2. https://www.chosun.com/entertainments/broadcast/2025/12/12/MZRDMODCGY4WGZBTMJSGCM3CMM/?outputType=amp
※3. https://www.chosun.com/entertainments/broadcast/2025/12/12/GVRDMOJTGNSWGZJRGU4TINTCMM/?outputType=amp

■配信情報
『告白の代価』
Netflix独占配信中
YOOYOOJAJEOG/Netflix © 2025

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる