今村翔吾×瀬口忍×三吉彩花『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』鼎談 「3世代で語り合えるような作品に」

今村×瀬口×三吉『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』鼎談

『火食鳥』の根底に流れる「熱い気持ち」

(左から)瀬口忍、今村翔吾、三吉彩花

――『火喰鳥』は、主人公である松永源吾が、新しい仲間たちと共に再起を果たす話ですが、その中には、さまざまなテーマがちりばめられていて……瀬口さんと三吉さんは、本作の面白さは、どんなところにあると感じましたか?

三吉:やっぱり、登場人物の一人ひとりが、すごく濃いですよね。源吾はもちろん、彼が率いるぼろ鳶組の面々も、ただカッコいいだけのヒーローではないというか……みなさん、いろいろあるじゃないですか。それこそ、悪役っぽい人たちも、ただの悪いやつではなく、複雑な事情や過去を抱えていて。そのあたりが、この作品のすごく面白いところだと思います。

瀬口:先ほど今村さんもおっしゃっていましたけど、「人はいつでもやり直せるんだ」っていうのは、どこかしら自分にも当てはまるところがあるというか、きっと多くの人たちに共感してもらえるんじゃないかと思っていて。誰かが誰かの背中を押すとか、場合によっては焚きつけるようなことって、誰しもが共感できることだと思うし……これは僕の勝手な想像ですけど、今村さん自身が、自分の教え子たちを励ましたり、逆にその子らに励まされたりすることが、たくさんあったんだろうなって思って。そういうリアルな人間同士の繋がりみたいなものが、この物語の中には、たくさん出てくるというか、一貫して「人の心を動かす」ということが、この物語のテーマになっているじゃないですか。大雑把な言い方ですけど、「熱い気持ち」みたいなものが、この物語の中には、すごくちりばめられていると思っていて。僕自身、原作小説を読みながら、何度も何度も泣いてしまいました(笑)。

――今村さんの書く小説は、どれも「熱い気持ち」があるように思いますが、その原点がこのシリーズにあるというか、それこそ先ほどおっしゃったように、ダンスインストラクター時代の経験に基づいたところがあるのでしょうか?

今村:それはたぶん出ているんじゃないですか。『ぼろ鳶組』は、特に。小説家になる前の僕の人間ベースというか、ダンスインストラクター時代の僕の人間ベースは「とにかく人に対して真剣に向き合おう」ということだったので。それが、作品にも出ているというか、僕は人間というものは、失敗もするし汚い部分もいっぱいあるんだけど、最後は人間を信じたいみたいなところが、その根底にあるんですよね。汚いんだけど、最後はキレイでありたいみたいな。僕は、そういう人間を描きたいんですよね。

――なるほど。

今村:あと僕はやっぱり、時代劇や時代小説の復活というか――『イクサガミ』もそうですけど、そういうものを常に掲げているようなところがあって。『ぼろ鳶組』に関しては、3世代がギリギリ楽しめる臨界点が、ここなんじゃないかと思ったんですよね。若い世代には、ある種のヒーローとしての火消のカッコよさがあり、30~40代に関しては、もう一回仕事を頑張ろうみたいな共感があり、おじいちゃんおばあちゃん世代には、時代劇としての馴染みがありっていう。だから僕は、今回のアニメに関しても、3世代で語り合えるような作品になってほしいなっていうのが、ひとつ願いとしてあるんですよね。

江戸文化の粋がつまったエンターテインメント

三吉彩花

――なるほど。アニメ版で三吉さんが声を担当する深雪というキャラクターについても、少し聞かせてください。ぼろ鳶組の面々をはじめ、個性的な男性の登場人物が多い本シリーズの中で、源吾の妻である深雪は、かなり貴重なキャラクターですよね?

今村:原作者調べによると、読者人気ナンバーワンやから(笑)。もう、不動のナンバーワンですよ。深雪が1位で、新之助が2位……で、源吾が3位とか4位ぐらいっていうのが、僕の印象なんですけど、どうですか、深雪は? 僕は、三吉さんにやってもらって嬉しかったけど……。凛とした雰囲気が、すごく合っていて。

三吉:いやいや(笑)。でも、自分が共感できるところがすごくあったからこそ、演じることができたように思っています。深雪って、金勘定に細かいとか、いろいろな側面がありますけど、やっぱり一貫して、すごく芯が通っている女性じゃないですか。それは、ただ強いというだけではなく、町の人々に寄り添ってあげるような優しさだったり、まわりの人たちを導いてあげるようなところもあって。私も、こういうふうになりたいというか、こうなれたらいいなっていう、ひとりの女性として憧れみたいなものもあるんですよね。だから、このタイミングで、この深雪という役に出会えたのは、私にとっても、すごくありがたいことでした。

(左から)瀬口忍、今村翔吾、三吉彩花

――瀬口さんは、どんな思いで深雪という人物を描いているのでしょう?

瀬口:深雪は……描くとき、いちばん緊張します(笑)。僕の描く漫画には、これまであまり女性が出てこなかったというのもあるんですけど、単純に女性というのは、僕にとっては異性であって……やっぱり、わからないことが多いじゃないですか。

三吉:すいません(笑)。

瀬口:(笑)。そういった意味でも、描くのに緊張感があるというか。ただ、それと同時に、今村さんの原作を読みながら、そこでは描かれてない何かを探している感じもあるんですよね。小説には直接描かれてないけど、このとき「深雪」は、どんな表情をしていたんだろうとか。そういうところは、僕のほうでいろいろと考えながら、描かせてもらっています。

――「深雪」と接するときは、少し緊張感があるというのは、「ぼろ鳶組」の面々も同じですよね(笑)。そういう意味で、「ぼろ鳶組」の中心には、実は彼女の存在があるようなところもあって。

今村:そうそう。それはある程度、僕のほうでも意識していたというか、だからこそ、老若男女、みんな「深雪」が好きなんだと思うんです。さっき人気投票みたいな話をしましたけど、僕は、いろいろあって最終的には「源吾」になったらいいというか、結局は「源吾」の物語だよねって、なったらいいなと思っていて。だから今は、3位とか4位ぐらいが、ちょうど良いと思っているんです。漫画とかでも、主人公の人気が3番手、4番手ぐらいのものって、結構あったりするじゃないですか。

瀬口:そうですね(笑)。

今村:僕は、それでいいと思っているというか、原作小説は、まだまだ続いていくんですけど、最終巻で「源吾」が人気投票の1位を取るような小説になったらいいなっていう。なので、それまでは「深雪」に、ずっと引っ張ってもらおうかなって思っていて(笑)。

――なるほど(笑)。少しネタバレになるかもしれませんが、『火喰鳥』のクライマックスは、実際にあった「明和の大火」ですよね。で、そんな「明和の大火」から、2025年のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』が始まっていて。その繋がりみたいなものも、ちょっと面白いですよね。

今村:そうそう。そういう意味では、『べらぼう』を観ている方々にも、結構楽しんでもらえるんじゃないかな。僕は、やっぱりあのへんの時代が、江戸時代のいちばん江戸らしい時代だったと思っているので。

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――どういうことでしょう?

今村:たとえば、蕎麦とか寿司とか鰻とか、僕らにも馴染みのあるような食べ物が全部出そろうのが、あの時代なんですよ。それよりあとになると、もうちょっと外国のものが入ってくるんです。だから、あの時代が、食べ物も文化も、いちばん江戸っぽいというか。そう、文化的なことで言えば、小説とか漫画の原型みたいなものが生まれたというか、それを大衆が楽しむようになったのが、あのへんの時代なんですよね。火消という存在も、街のアイドルみたいなところがあったというか、それこそ「推し」の組があったりしたようなので。そう、時代小説とか時代劇のいいところって、まったくの異世界じゃなくて、地名とかも含めて、僕らの時代との繋がりが、感じられるところだと思うんですよね。

TVアニメ「火喰鳥」第一弾PV

――なるほど。ますますアニメの放送が楽しみになってきますが、そんな『火喰鳥』のアニメを楽しみにしている方々に、最後にひと言ずつお願いします。

今村:僕はもう、放送日が楽しみというか、多分僕自身がいちばん楽しみにしているので、みなさん一緒に楽しみましょうって感じかな。あとは、さっきも言ったように、僕はこの作品の読者を、全世代の物語でありたいと思って書いたので、きっとアニメのほうも、子どもからお爺ちゃんお婆ちゃんまで、3世代が楽しめるようなものになっているんじゃないかな。そもそも、僕の作品は、『イクサガミ』もそうやけど、「時代ものは苦手と思っていたけど」って枕詞がついたあと、「面白かったです」って言われることが、すごい多いんよね(笑)。そういう意味では、アニメは小説以上に誰でも気軽に観られると思うので、是非いろんな方々に観ていただけたらいいなって思っています。

――瀬口さんは、いかがですか?

瀬口:僕は、漫画のほうを一生懸命頑張るというか、自分ができることをやるだけなんですけど、漫画を描きながら、僕の頭の中では、もう「絵」が動いているんですよね。なので、アニメのほうは、どんなふうに動くのかなっていうのは、すごく楽しみですし、物語自体は、もう間違いなく面白いと思うので、そのあたりはご安心くださいという感じでしょうか。

――絵が動くことはもちろん、アニメの場合は、登場人物たちがしゃべるという、小説とも漫画とも違う楽しみもあるわけで――そのあたりも含めて、最後に三吉さんのほうから、何かひと言お願いします。

三吉:プレッシャーが(笑)。私自身は、今回こういう形で参加させていただきましたけど、他の声優の方々が、本当に素晴らしいと言いますか、実際の現場では、マンガを描くときの下書きのような途中段階のものに声を当てていく形でアフレコをしたのですが、それでもグッとくるような熱量を感じる瞬間が何回もあって。これが完成したら、どんな感じになるんだろうっていうのは、自分としてもすごく楽しみだし、これは先日、モデルの仕事でパリに行ったときにも感じたのですが、日本のアニメって、海外でもすごく人気じゃないですか。なので、この作品も、いずれは海外に羽ばたいていけるように、私も引き続き頑張っていけたらなって思っています。

■放送情報
TVアニメ『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』
CBC/TBS系全国28局ネット「アガルアニメ」枠にて、2026年1月11日(日)スタート 毎週日曜23:30〜放送
※放送時間は編成の都合など変更となる可能性あり
キャスト:梅原裕一郎、梅田修一朗、木村昴、島﨑信長、小野賢章、三吉彩花、諏訪部順一 ほか
原作:今村翔吾
監督:八隅宏
シリーズ構成:森龍介
CG監督:眞田竹志
アニメーション制作:SynergySP
©今村翔吾/祥伝社/ぼろ鳶組一同
公式サイト:https://hikuidori-project.com/
公式X(旧Twitter):https://x.com/hikuidori_pj

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