『国宝』にも出演の下川恭平は“記憶”に残る俳優 『ばけばけ』小谷役で飛躍の時へ

NHK連続テレビ小説『ばけばけ』で、ヘブン(トミー・バストウ)の教え子である小谷を演じている下川恭平。ドラマの中では、仲間である正木(日高由起刀)、錦織の弟の丈(杉田雷麟)と共に、和気あいあいと穏やかな表情を浮かべている姿が印象的だ。
けれども机に向かい、授業を受ける時の眼差しは鋭く、さっきまでの「あどけなさ」がまるで嘘のようだ。小谷がふと鋭い目をした瞬間、演じている下川が映画『国宝』で、任侠時代から立花喜久雄(吉沢亮/黒川想矢)の親友・早川徳次を演じていた役者であることに、ようやく気づく。映画では、父を殺され復讐に燃える喜久雄に静かに寄り添い、支える徳次を好演していた。
映画『#国宝』
早川徳次役で出演させていただいています。
原作で沢山の方に愛されてる徳次を、その魅力が少しでも伝わるよう、僕も沢山の愛をもって演じさせていただきました。
この作品の一員になれたこと、本当に幸せです。
圧巻の映画体験をぜひ、劇場で体験してください🔥#映画国宝 pic.twitter.com/zCcEOeMVK2
— 下川恭平 (@kyoheishimokawa) June 8, 2025
映像作品においては、ほんの一瞬の場面が「後の展開」を支える柱となることがある。下川恭平が演じる役は、『国宝』では冒頭の青年期のみ、『ばけばけ』では生徒役としてまだわずかに映る程度だ。短い瞬間の登場ではあるものの、下川が演じる役の声・表情・動きは「記憶」に残る確かなものだった。だからこそ、私自身も『ばけばけ』の中でその鋭い眼差しを見た時に、「国宝の徳次だ」と気づけたのだろう。
本記事では、下川が「僅かな時間に存在感を刻み込める稀有な役者」である理由を紐解いていきたい。
北海道出身の下川恭平は、3歳から芝居とダンスを身につけてきた。幼い頃から積み重ねてきた確かな基盤があるからこそ、彼の演技には揺るぎない安定感を覚えるのだろう。下川は抜群の運動神経を誇り、自身のInstagram(2023年7月9日投稿)ではアクロバティックなトリッキングを披露している。勢いよく床を蹴り上げ、宙へ舞う姿はまさに圧巻の一言である。(※1、※2)
身体能力や体幹の良さは、映画『国宝』の劇中劇『関の扉』でも表れていた。下川は、映画の導入部となるこの演目で、関兵衛に扮する徳次を演じている。微動すらせず、目を閉じてじっと佇む徳次の姿は、まるで本物の人形のようだ。
どっしりと構える立ち姿は、隣で艶やかに体をしならせる女形・喜久雄の色気を際立たせていく。その後、徳次から発せられる第一声には迫力があり、一気に映画の世界へと引き込まれた。『国宝』が紡ぐ厳しい歌舞伎の世界が、ここから始まるのを感じさせたのだ。
『関の扉』での演技は、少年期を演じた役者のものとは信じがたいほどに本格的で、観る者の心を一瞬で掴むクオリティを放っていた。冒頭から「一切の妥協を許さぬ覚悟」が刻まれた演舞が披露されたことにより、この作品が「歌舞伎」という難解な世界から逃げることなく、真正面から徹底的に向き合った映画であることが、ひしひしと伝わってくる。
音楽活動も行う下川の魅力は、その声にも宿っている。映画『ぼくが生きてる、ふたつの世界』ではテーマソングを担当し、全編英語詞で構成された「letters」を披露。歌声は軽やかでありながら、低音から高音まで音域が広く、必要な箇所で確実に音を伸ばす表現力は見事だ。





















