橋本愛×染谷将太、“宿敵”の対峙は『べらぼう』屈指の名シーンに 全員の力で“写楽”誕生へ

『べらぼう』全員の力で“写楽”誕生へ

 一方の歌麿も、蔦重との日々を懐かしんでいた。自分の名さえ入っていれば何でもいいと言わんばかりに、ダメ出しひとつない本屋たちに苛立ち、「もっと何かあるだろ」と噛みついてしまう。より良いものにするために、もっとできることがあるはず。しかし、それが何なのかを示してくれる蔦重のような存在がいない寂しさ。こだわりの強さを「たかが浮世絵一枚でどうかしちゃいないかね」と揶揄される虚しさは、蔦重に想いが伝わらないこととはまた違う痛みだった。

 そんなふたりを見かね、ついにていが歌麿のもとを訪れる。持参したのは『歌撰恋之部』。その下書きを歌麿から蔦重への“恋文”と受け取ったていは、それを想像以上に仕上げた完成品を、蔦重から歌麿への「恋文の返事」と例えた。そして、ていもまたただ二人の縁を結び直すためだけに動いていたわけではない。「本音を申せば、見たいのです。ふたりの男の業と情。その因果の果てに生み出される絵というものを見てみたく存じます」と、自身の野心も正直にぶつける。「私も本屋の端くれ。性(さが)というものでございましょうか」と。

 その言葉には、ていの中にあった蔦重への葛藤も垣間見えた。妻として蔦重の才覚に惚れながら、どこかで同じ本屋として“敗北”を感じていたのかもしれない。蔦重のように奇抜な企画で世間を大騒ぎさせる発想は自分にはない。けれど、恋心に疎い蔦重にはできないクリエイターの繊細な心の動きを汲み取ることはできる。

 出家して恋の相手として身を引くという、ていの「嘘」は見抜くことができた歌麿だが、ていが初めて見せた本屋としての覚悟には思わず息を呑む。蔦重への想いだけでなく、良いものを生み出すという核の部分で、自分と同じ“同志”であると触れたのかもしれない。蔦重と定信もそうだ。そのやり方は異なれど、いい世の中にしたいという志は同じ。

 宿敵というのは、それだけ手に入れたいと望むものが同じだということ。だからこそ、お互いに譲れず、ぶつかり合う。蔦重と定信、そしてていと歌麿。それぞれの間で火花を散らしていたエネルギーが集まり、まるでエレキテルが放電するように“写楽”という幻の絵師を生み出そうとしている。それは「江戸の怪物」と呼ばれた、あの治済を追い詰めることはできるのか。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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