橋本愛×染谷将太、“宿敵”の対峙は『べらぼう』屈指の名シーンに 全員の力で“写楽”誕生へ

本屋としての使命を授けてくれた平賀源内(安田顕)との再会に胸を膨らませていた蔦重(横浜流星)。だが、そこに現れたのは本屋としてはもちろん、人生そのものを追い込んだ宿敵・松平定信(井上祐貴)だった。自分だけではない。恋川春町(岡山天音)の命を奪い、多くの仲間を苦しめた張本人。そんな相手から、たとえ因縁の元凶が一橋治済(生田斗真)の暗躍にあったと告げられても、すぐに手を組む気になれないのは当然だ。

定信に散々やり込められ、吹けば飛ぶような本屋でしかない自分を思い知らされた。本で世の中を変えてやるなど、大きな野望を持ったことが間違いだったと打ちひしがれた。だからこそ“いまさら……”という気持ちになるのも頷ける。しかし、そんな蔦重の中に眠っていた使命感がうずいたのも確かだ。へし折られた心を奮い立たせ、もう一度動き出す。人生とは、まさにそんなときにこそ、自分が何を成し遂げたいのかが見えてくるものだ。
NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第45回「その名は写楽」では、いよいよ蔦重と定信の“打倒・治済プロジェクト”が始動する。それは、治済にとって最も蒸し返されたくない「死を呼ぶ手袋の真相」を知る平賀源内の生存説を広めることだった。

「お前ほどこの役目にふさわしい者もおらぬであろう」と、蔦重の実力を誰より知る定信からの提案。とはいえ、蔦重もただ定信に利用されるだけでは腹の虫が収まらない。その複雑な心境を汲み取って「この際、蔦屋重三郎らしい、うんとふざけた騒ぎにしてみてはどうでしょう?」と提案したのは、妻のてい(橋本愛)だった。
定信から資金をしっかりと調達し、これ以上ない贅沢でふざけた騒ぎを起こそうというのだ。そして「それをもって春町先生への供養となすのはいかがでしょう?」とも。おそらく、ていが失った我が子を思い続ける中で「どう生きればいいのか」と考え抜いたからこそ辿り着いた提案だったのだろう。

生きることが叶わなかった人のために、遺された者に何ができるのか。そこに「みなさまにはせめて、お笑いいただきたく!」と春町の幸せそうな声が聞こえてくる。もちろん、二度と会えない寂しさに涙を流す時間は必要だ。しかし、その先には、生き続けなければならない現実が待っている。亡き愛しい人を胸に秘めながら懸命に生きる。そして心の中で語りかけ、思わず笑い合えるような日々にしていくことこそが、本当の意味での供養なのかもしれない。そうていは考えたのではないだろうか。
さらに、ていにとってもうひとつ大きかったのは、彼女自身の“ライバル”へのけじめの時が近づいていたことだ。それは、蔦重を巡る恋敵ともいえる相手・歌麿(染谷将太)との対峙だ。蔦重の隣にいたからこそ、歌麿の痛いほど切ない想いに気づいていたてい。しかし、妻という立場でその恋を取り持つのはおかしな話でもあり、どうしたものかと思いあぐねていたようにも見える。その矢先に、蔦重と歌麿の決別の瞬間が訪れてしまった。

もっとも、蔦重にとって歌麿以上の絵師はいないことは確か。かつての仲間を集め、世間に源内生存説を焚きつける「写楽」という架空の絵師を生み出そうと試みるも、「これだ!」という絵が生まれない。これまでの役者似顔絵とは違う、ありのままの姿を描いた絵に源内の蘭画風の新しさも加えたい。何度もやり直しを命じられた絵師たちからは「やってられっか!」と不満が爆発した。

だが、このしつこさこそ、歌麿が絵師として鍛えられ、同時に蔦重を名プロデューサーへと押し上げた、かけがえのない日々だったことを思い出す。幼い頃から筆致の模写に長け、ありのままの命を写し描く尊さを知った歌麿。ふと、歌麿の浮世絵を見ながら、そんなふたりの歩みを思い返してしまう。しかし、どれほど恋心に疎いとはいえ、蔦重もわかっていたのだろう。ここで歌麿を頼れば、それこそ江戸っ子が廃る、と。





















