髙橋海人は“葛藤”を表現し続ける 『君の顔では泣けない』で生き抜いた“まなみ”の人生

髙橋の演技における凄みは、複雑な役どころであっても、違和感なく観る者を物語に引き込めることだ。たとえば、ドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系)で髙橋が演じる姿は、サラサラの茶髪に大きな瞳が印象的な美青年。そのビジュアルだけを見れば、「オードリーの若林」には到底見えない。
にも関わらず、春日に「普通のことを俺が言う、それに対してお前がズレたツッコミにする」と少しニヤリと語る様子や、漫才の中で「オードリーっていいますけどね」と話す仕草は、まるで本物の若林が憑依しているかのようだ。
『だが、情熱はある』髙橋海人の“惹きつけ力”が光る 森本慎太郎の並外れた“愛され力”も
嫌なことが立て続けに起こった時、親友に「人生における幸せの量は同じにできてるんだよ。だから次は絶対にいいことがある!」と励まされ…ただ似せているだけではない。髙橋は、若林が抱えていた笑いへの情熱はもちろん、コンプレックスや嫉妬心といった揺れ動く内面までも、丁寧に演技で表現していた。たとえば、「俺は全然面白くないから!」と、悔しさをぶちまける様子は、長きに渡り鬱々とした思いを抱えてきた人間にしか表せないものだった。
ドラマ『95』(テレビ東京系)では、地下鉄サリン事件をきっかけに人生が大きく揺らいでいく髙校生Qを演じた。Qはノストラダムスを誰よりも信じ、家族が話しかけても上の空で、会話にもまともに応じない。地に足がついていない素振りで、混沌とした時代をふわりと彷徨う少年の姿を、髙橋は見事に体現していた。
髙橋は、演じる人物が奥底に抱え込む「核」に潜む感情を掬い取り、仕草や目線、言い回しなどの表現に乗せるのが実に上手い。だからこそ、説明がなくても「役」が抱える背景や葛藤が観る人に伝わるのだ。

まなみは成長とともに、少しずつ自分の状況を受け入れながら、強くなっていく。後半、彼女は陸に向かって「私の顔で情けなく泣かないでくれる?」と挑むように言い放つ。その言葉には皮肉も怒りもない。ただ、誰かの人生を「生きる」ことの重みと責任を、彼女なりに伝えようとしていた。
物語の終盤、まなみが静かに本音を語る場面がある。声を荒げることなく、淡々と、でも確かな覚悟をにじませながら。その瞬間、まなみが「誰かの人生」に責任を持ちつつもなお、自分の足で生きてきたことが伝わった。
そして、最後。2人は元の体に戻れるのか、それとも……。ネタバレになるのでラストの詳細は控えるが、映画を観たその日は余韻で胸がいっぱいになることだけは覚悟しておいてほしい。
■公開情報
『君の顔では泣けない』
全国公開中
出演:芳根京子、髙橋海人、西川愛莉、武市尚士、中沢元紀、林裕太、石川瑠華、前野朋哉、前原滉、ふせえり、大塚寧々、赤堀雅秋、片岡礼子、山中崇
原作:君嶋彼方『君の顔では泣けない』(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督・脚本:坂下雄一郎
音楽:Inyoung Park
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
助成:文化庁文化芸術振興費補助金(日本映画製作支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
©2025「君の顔では泣けない」製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/kiminake/
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