髙橋海人は“葛藤”を表現し続ける 『君の顔では泣けない』で生き抜いた“まなみ”の人生

髙橋海人は“葛藤”を表現し続ける

 King & Princeの髙橋海人が、映画『君の顔では泣けない』で演じるのは、水村まなみという「15年前、ある出来事をきっかけに男性と入れ替わり、そのまま生き続けている人物」だ。見た目は坂平陸(芳根京子)、けれども中身は結婚を夢見ていた真面目で優しい女の子。髙橋の柔らかな佇まいと、繊細な演技がこの複雑な役どころに静かな説得力を与えている。

 本作は、入れ替わり物に多いラブコメでもなければ、「元の体に戻る方法」を探していく物語でもない。入れ替わった状態のままで、お互いが恋愛、結婚、妊娠、出産、育児と人生の節目を、淡々と歩んでいく2人の姿が描かれている。

 誰かと入れ替わるということは、つまり他人の人生を生きることである。そして、自分の人生を誰かに「渡す」ことだ。まなみは、「(入れ替わった事実を)受け入れなきゃ」と自分に言い聞かせながらもなお、どこかでやはり「元に戻りたい」という思いを手放せずにいる。その揺れる心は、陸と向き合っている時の視線にも表れていた。陸と他愛ない言葉を交わしていても、その目線はどこか遠い。

 けれども、陸が田崎(中沢元紀)と関係を持ったことや、交際を申し込まれて戸惑った気持ちを打ち明けた瞬間、まなみの視線が下りていく。遠くを見ていた目が、そっと陸に向けられていき、そこには陸を気遣う「優しさ」が滲んでいた。

 まなみを演じた髙橋は、感情の揺れを誇張するのではなく、微細な心の動きを1つ1つ丁寧に演じていた。だからこそ、まなみが「男性」として生きていく葛藤に説得力が生まれていた。本記事では、髙橋海人の繊細な演技の魅力に焦点を当てて紹介していく。

 映画の冒頭、まなみと陸がカフェで楽しそうにお茶をしているシーンから始まる。スクリーンには、笑う時にそっと手で口元を隠し、ストローでジュースを飲む際には両脇をきゅっと締め、ちょこちょこと控えめに飲む髙橋海人の姿が映った。その細やかな所作だけで、髙橋海人が演じている「陸の姿をした人物が、まなみ」なのだとすぐに理解できた。

 まなみと陸が入れ替わったことは、家族にも、友人にも知られていない。2人が意を決して真実を伝えようとしても、周囲は結局「見た目」しか信じない。目に映るものがすべてであると、疑いもしない。

 誰にも相談できず、当事者にしか理解できない複雑な感情を抱えながらも、まなみと陸は少しずつ、お互いの気持ちを確かめ合いながら大人になっていく。まなみは、陸に交際中の女性の写真を見せることもあるが、その笑顔はぎこちない。女性として生きる葛藤を素直に言葉にする陸とは対照的に、まなみは陸に余計な心配をかけたくないと思っているため、感情を飲み込むことが多いのだ。

 気遣いを重ね、自分の気持ちに蓋をしながら生きてきたまなみが、陸から「元に戻る気ないでしょ」と問いかけられた瞬間、「戻りたくないわけないでしょ」と、涙をこらえながら苦しそうに言葉を吐き出す。それは、今まで陸にも伝えられなかった本音が、ようやくこぼれ落ちた瞬間だった。抑えてきた感情が一気に溢れ出すそのシーンには、まなみが何年も抱えてきた葛藤と、言葉にならなかった願いが詰まっていて、静かなシーンでありながらも迫力があった。

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