『ちょっとだけエスパー』は“愛”を教えてくれる 野木亜紀子が描く人間の美しさと残酷さ

本作を観ていて痛感せざるを得ないのは、そんな脆く儚い、たやすく変容するこの世界において、「藁を掴む」ように私たちは何かを信じ、愛さずにはいられないのだということだ。
文太は子どもの頃、確かな愛の実感が欲しくて、無口な父の背中に手を伸ばした。父の心の声が聞きたいという強い思いが、彼のエスパーに繋がったのだとしたら、今、手を伸ばした先にいる、手を伸ばさなくても肩が触れ合うだけでじんわりと伝わってくる四季の「文ちゃん」に対する揺るぎない愛情を、どうして拒むことができるだろうか。

会社をクビになり、妻と離婚し家庭を失って、唐突に断たれてしまった人生のその先にあった仮初めの妻・四季との日々は、四季の目の前で悲惨な死に方をしたという彼女の本当の夫と彼女との夫婦の歴史の延長線上にある。四季から聞いた「文太が誕生日に漬物石をプレゼントした」ことやプロポーズの光景が、まるで本当にあったことのように文太の中で構築されていくように。もしくは第3話において近所の神社のお祭りに行こうとする四季の「今年は浴衣着て行こっか」という言葉に、これまでの夫婦の歴史を感じ、文太が思わず微笑むように。

そこには、彼がずっと欲しかった確かな愛の実感と、一度断たれてしまった人生の続きがある。たとえ、それが自分とは違う誰かと彼女の人生の続きで、誰かと彼女が構築してきた歴史の上にある愛情だったとしても。“non amare.”、「人を愛してはならない」という掟の上に存在する「ちょっとだけヒーロー」たちの物語は、何より「愛」というものの複雑さを教えてくれるに違いない。
■放送情報
『ちょっとだけエスパー』
テレビ朝日系にて、毎週火曜21:00~21:54放送
出演:大泉洋、宮﨑あおい、ディーン・フジオカ、宇野祥平、北村匠海、高畑淳子、岡田将生
脚本:野木亜紀子
監督:村尾嘉昭、山内大典
エグゼクティブプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、山形亮介(テレビ朝日)、和田昂士(角川大映スタジオ)
音楽:髙見優、信澤宣明
制作協力:角川大映スタジオ
制作著作:テレビ朝日
©︎テレビ朝日
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