野木亜紀子は人間としての“真実”を突きつけている? 『ちょっとだけエスパー』第1話に驚愕

つい先ほども、SNSを見ていて翻弄されたばかりだ。愛犬が少し先の未来を予知したかのように主人に飛びつき、突っ込んできた車から身を守る――そんな感動的な動画がおすすめとして回ってきたのだ。「動物の持つ本能ってすごい!」と心が躍った次の瞬間、下部に「AI生成動画と思われます」という言葉が添えられていることに気づく。
最近では、投稿された映像が奇跡的な瞬間を映した“真実”なのか、それとも精巧に作られた“フェイク”なのか、ますます見分けがつかなくなってきた。目の前で起きている出来事一つひとつに疑いを持って見なければならないという、これまでにない混乱を生んでいる。
そんなリアルと仮想現実の境界が曖昧になっている2025年の秋に、ぴったりなドラマが始まった。脚本・野木亜紀子×主演・大泉洋の注目作『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)だ。

これまで『アンナチュラル』(TBS系)、『MIU404』(TBS系)、映画『ラストマイル』など、フィクションの中に現実社会の課題を見据えた鋭い視線が光る作品を紡いできた野木が、SF(少し不思議)なストーリーに挑むとあって、どんな展開を見せるのかと胸を弾ませながら第1話を観た。もちろん、その期待を大きく上回る圧倒的なスタートに思わず口角が上がる。フィクションの幅が広がるほどに、リアルを突きつけられる、見事な手腕をまざまざと見せつけられた気分だ。
「ありえない」現実も、「仕事なら」と受け入れてしまう生々しさ

物語は、主人公の文太(大泉洋)が高層ビルの屋上から意を決して飛び降りるところから始まる。だが、落下中にはカモメと意味深に目が合う妙な冷静さを見せ、そのまま地面に打ちつけられても血しぶきは飛ばない。そして表示される「GAME OVER」の文字によって、ようやく現実の映像ではないことがわかる。
しかし、VRゴーグルを外した文太の表情には、それが単なる“荒唐無稽な非現実”とも言い切れない悲壮感が漂う。ひょっとしたら「身を投げる」ということすらも叶えられない「夢」と言いかねない厳しい日々をすごしていたからだ。
仕事も、家族も、貯金も失ったどん底の人生。いっそ命を投げ出したい、けれどそんな勇気もない。死ねないから生き続けている。そんな文太が決して特別な存在ではないことは、彼が寝泊まりするネットカフェのブース前に置かれた、生活臭のあるキャリーケースや大袋から察せられた。
では、ゴーグルを外したその後の世界は本当に現実なのだろうか。次々と訪れる人生の転機に、文太も視聴者同様に戸惑いながら歩みを進める。なんとも羽振りの良さそうな会社「ノナマーレ」から届いた突然の面接への誘い。いち面接官だと思っていた兆(岡田将生)が社長であるという漫画的なサプライズ。そして最終面接として差し出された怪しげなカプセル……。

それが最終選考の一環だとしても、通常ならなかなか飲む勇気は出ない。だが、これで仮に命を落としたとしても自ら飛び降りるよりはマシではないか。そんな気分だったのかもしれない。覚悟を決めて飲んだ文太に告げられたのは「今日からエスパーです」という謎の言葉。そこから始まる、見知らぬ女性・四季(宮﨑あおい)との“仮初の夫婦生活”だった。
無事に就職を決めたとはいえ、業務として与えられるミッションはターゲットに傘を持たせたり、目覚まし時計を進めたり、スマホ充電をゼロにするなど、どれも利益を生み出すとは思えないものばかり。そして、演技にしてはリアル過ぎる四季の“妻っぷり”にも動揺しっぱなしだ。
だが、文太の戸惑いが「それも仕事」という言葉で徐々に麻痺していく。その姿は、きっと社会人であれば多くの人が身に覚えがあるはずだ。どんなに「ありえない」という展開であっても、「仕事」と割り切った瞬間になぜか受け入れてしまう。そんな妙な生々しい思考の落とし穴にハマっていく感覚にゾクッとさせられる。






















