『べらぼう』すべてがこぼれ落ちていく悲しみの第43回 蔦重×定信が奪われた“夢”

「あの日から20年。俺に付いてきてくれてありがとうな」という蔦重の置き手紙に、それだけ長い年月が流れていたことに気づく。若きころの蔦重は何もなかった。だからこそ目の前のある僅かな大切なものを、しっかりと握りしめることができた。そして近年の蔦重はたくさんのものを抱えるようになったがゆえに、自分を支えてくれる身近なものに目が届かなくなった。それは、蔦重だけに限らない。誰もが経験しないとわからない、人生の苦みとも言えそうだ。

定信もまた若き将軍・家斉(城桧吏/幼少期:長尾翼)の後見人として、蔦重と同じく若くして親代わりを経験したとも言える。そして自分の思う通りに将軍が動いてくれると過信した結果、政の表舞台から姿を消す羽目になった。当然、その影には家斉の実父・治済(生田斗真)の存在が透けて見えるのだけれども……。
どんなに煙たがられても、正しい国を目指して邁進してきた定信。その定信に厳しく処罰されながらも、世の中に明るい笑いをもたらそうと黄表紙や錦絵を出し続けてきた蔦重。そんなふたりがどちらも思い通りにいかない結果になってしまった。積み上げてきたもの、これから広がっていくと信じていたものが、泡となって消えていく。その絶望感が、血の涙を流すかのように真っ赤に染まった定信の目と、光が一切消えた蔦重の憔悴しきった真っ黒な瞳と、対象的に描かれた。

人が今を生きられるのは、夢を見ることができるから。 「この努力が、きっと少し先の未来につながっている」と信じられるからこそ、歩みを止めずにいられる。 その夢を絶たれたとき、人は何を支えに生きていくのか。蔦重と定信の姿は、まさにその問いを突きつけるようだった。
この『べらぼう』の物語も、いよいよ終盤が近づいている。多くの別れを経験し、そのたびに「笑えないことこそ笑えるように」と奮起してきた蔦重のことだ。もちろん、このままで終わってほしくない。最終回に向けて、我らが蔦重の「そう来たか!」が待っていることを願うばかりだ。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK





















