「よど号ハイジャック事件」を韓国側の視点で描く 『グッドニュース』の挑戦的な試み

1970年に日本を震撼させた、「よど号ハイジャック事件」。極左過激武装組織・赤軍派が、羽田を飛び立った旅客機を乗っ取り、北朝鮮へと亡命したという、日本の戦後史に刻まれている大事件である。日本と北朝鮮のみならず、中継地となった韓国、その背後に存在するアメリカ、ソビエト連邦までも巻き込んで、当時の国際社会に大きな影響を与えることとなった。
そんな一大事件を、名称を変えるなど配慮しながら韓国側からの視点で描いた映画『グッドニュース』がNetflixでリリースされた。ソル・ギョング、ホン・ギョン、リュ・スンボムらが出演するほか、日本からも山田孝之、椎名桔平、笠松将らがキャスティングされたことで、話題となっている。監督は、『名もなき野良犬の輪舞』(2017年)や『キル・ボクスン』(2023年)など、飛躍的にキャリアを積み上げているピョン・ソンヒョン。
ここでは、本作『グッドニュース』の内容を追いながら、この映画が特徴的な演出で表現された理由や、そこで真に描かれたものが何だったのかを読み取っていきたい。
※本記事では、『グッドニュース』のストーリー展開を明かしている箇所があります
よど号ハイジャック事件の本格的な映画化は、日本でも企画、構想されたことが何度かあったと伝えられるが、なかなか実現には至らなかった。その理由は、被害者が存在する事件であるという前提はもちろん、きわめて政治的な犯罪者をどのように描くのかという難点が立ちはだかるからなのではないか。
同様に過激派による「あさま山荘事件」が映画化されたのは、そこで事件が終結したことが大きい。ハイジャック事件では亡命が成功してしまい、犯人たちはその後、北朝鮮で日本人拉致事件に協力したのではないかという疑惑がかけられている。そのことを考えれば、ハイジャック事件は継続性のある出来事であり、娯楽映画として表現するのは難しくなってしまうのだ。テロリストが乗客を人質にする『新幹線大爆破』(1975年)は、完全フィクションとして、当時の事件のインパクトを感じさせる作品だったといえよう。
本作『グッドニュース』の最も興味深い点は、そこまでシリアスな事件をそのままリアルに再現するのでなく、さまざまな脚色を加え、なんとコメディタッチのフィクションとして撮ってしまったということだ。ピョン・ソンヒョン監督は釜山映画祭で、「この事件を初めて知ったとき、コメディのような状況だと思いました」と語っている。それは、ハイジャックされた旅客機を韓国・ソウルの金浦空港に誘導し、そこが北朝鮮の平壌(ピョンヤン)であると思い込ませようとしたという、まるでTVドラマ『スパイ大作戦』のような、現実とは思えない仰天作戦を敢行した部分にあるのだろう。(※)
フィクションとはいえ、史実通りの部分も多い。外国語に不慣れな赤軍派メンバーは、それでもインテリ層であるため、さまざまな違和感から偽装作戦を見破ってしまうのだが、その過程を、本作はユーモラスに描いている。確かに、ソウル空港で北朝鮮の兵士や楽団、歓迎団に偽装した韓国人たちが「北朝鮮へようこそ!」と出迎える場面は、あまりにシュールであり、ところどころでボロが出てしまう部分も笑いを誘う。
この作戦における、やや無理のある豪快な作戦は、結果として失敗したとはいえ、最終的には全員生存することになったという観点では、ナイストライであることは間違いないだろう。しかしながら、この作戦自体をシリアスに描くというのは、かなり難しいところがあるのではないか。なぜなら、発想自体が“面白すぎる”からである。その点では、元CIAのエージェントの回想録を基にしたアメリカ映画『アルゴ』(2012年)にも近いところがある。
作戦は公式には封印され、その後韓国の軍部は詳細を明かさなかった。それがピョン・ソンヒョン監督のインスピレーションを刺激し、事件の裏側に破天荒な人物がいたのではないかという想像へと繋がっている。それが「アムゲ(誰か)」と呼ばれる、ソル・ギョングが演じる架空のキャラクターである。
























