『べらぼう』高岡早紀の魅力が凝縮された蔦重の母・つよ “謎の多い人生”に与えた深み

高岡早紀の魅力が凝縮された蔦重の母・つよ

 NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』で主人公の蔦屋重三郎(横浜流星)の母・つよを演じる高岡早紀の存在感が回を追うごとに増している。

 幼い蔦重を置き去りにした過去を忘れたかのように飢饉の折にふらりと耕書堂に現れ、劇作家たちに紛れてにこやかにごはんを食べていたつよ。蔦重は「何しに来やがったんだ。ババァ!」と、(「え? 高岡早紀をババァ呼ばわり?」という視聴者の驚きをよそに)怒りつつも、そのまま居座るつよに悪態をつきながらも、そばにいることを嫌がる様子はない。

 聡明で冷静沈着なてい(橋本愛)のことを尊重し、嫁と姑の関係は良好。それどころか、髪結いをしていたつよが耕書堂を訪れた客の髪を結ってもてなしていたり、商売に対して鋭いツッコミを入れることで助けられている場面も多く、蔦重の商売上手で人たらしなところは、むしろつよ譲りなのだと納得させられる。

 とくに、歌麿(染谷将太)と蔦重の関係性において、つよが重要な役割を果たしていることに気づかされる。歌麿が心から愛する妻のきよ(藤間爽子)を亡くし、憔悴しきっている時に「お前は鬼の子なんだ。生き残って命を描くんだ」と蔦重に言われたことで深く傷ついた歌麿。蔦重は、きよのあとを追おうとする歌麿を止めるたびに殴られたが、それでも付き添い、つよに頼んで食事を届けてもらっていた。蔦重としてみれば、歌麿に生きる気力を取り戻してもらいたくて必死だったのだ。

 つよは自由気ままに振る舞っているようでも、繊細で傷つきやすい歌麿の心情に気づき、母のような愛情でさりげなく接する。蔦重にとって歌麿は弟のような存在でもあり、自分が面倒を見るという気持ちが強いのも承知で、つよは蔦重を店に戻らせ、代わりを買って出た。つよの介抱の甲斐もあり、歌麿はつよと一緒に栃木に仕事に行くことを決めた。

 つよは実の息子である蔦重に対しても、息子のような存在として接している歌麿に対しても、決して踏み込まれたくない距離にまで踏み込んできたりはしない。それだけではなく、そばにいて軽口をたたきながら、相手を気遣い、そっと手を差し伸べたりする。

 粋に着物を着こなし、色気があって、何ものにも縛られない強さとしなやかさを併せ持ち、母性に溢れるつよのような複雑な魅力を持つ女性をこんなにもナチュラルに演じられる女性が高岡早紀以外にいるだろうか。蔦重と歌麿の関係がこじれているからこそ、つよの存在は温かみを増し、輝くようにも感じられる。

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