日穏の俳優としての資質が光る 『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』で飛躍の予感

『代々木ジョニー』日穏の資質が光る

 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、高校時代は帰宅部で、放課後はもっぱらバイトに汗水を垂らしていた佐藤が、『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』をプッシュします。

『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』

 部活ものを題材にした作品といえば、今年の夏に放送されていたドラマ『ちはやふる-めぐり-』(日本テレビ系)が記憶に新しい。けれど、よく考えると、リアルな高校生ってみんながみんなあんなふうに情熱的だったわけじゃないと思う。部活に熱中して大会を目指す人もいれば、放課後はコンビニに寄って友達とだべって、バイト先のまかないに救われて……そんな日々を過ごしていた人も多いはず。木村聡志監督の『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』は、そんな「何も起きないけど確かにあった時間」をすくい取った青春映画だ。

 『違う惑星の変な恋人』などで注目された木村聡志監督の最新作であり、ミスマガジン2023受賞者出演プロジェクトの新作としても話題を集める本作。舞台は、どこか気怠い空気の漂うスカッシュ部だ。主人公の代々木ジョニーは、気の強い彼女を怒らせたり、部室で友人たちと他愛ない会話を交わしたり、引きこもりの幼なじみを心配したりしながら、ゆるやかな放課後を送っている(ラブコメの主人公すぎ!)。そんなジョニーの日常が変わり始めるのは、スカッシュ部に熱血新人が入部したこと、そして近所の古本屋でアルバイトをする女の子と出会ったことがきっかけだ。恋愛と友情と部活が、少しずつ重なり合い、やがて彼の中に“何か”が動き出す。

 とはいえ、木村監督が描く青春は決して眩しくない。練習もせず、口だけで終わる部員たち。恋の決定打もないまま、ただ会話が流れていく。けれど、その“どうでもいい会話”こそが木村作品の真骨頂だ。

 本作で映画初出演にして主演に抜擢された代々木ジョニーを演じる日穏(KANON)にも注目したい。何より、キラキラ青春映画に出ていそうな華やかなビジュアルを持っている彼が、女子の気持ちに気付けない鈍感すぎるラブコメ主人公を違和感なく演じていたのがすごい。あまり演技経験が多くないからこそのアクのなさが、この作品の空気感とも絶妙にかみ合っていたのかもしれない。

 そして、オーディションプロジェクト「THE LAST PIECE」から誕生したSTARGLOWのメンバーである日穏をはじめ、今年はBMSG所属の面々による映画出演も度々話題になっている。例えば、同事務所のボーイズグループ・MAZZELのNAOYAが映画『君がトクベツ』で映画初出演を果たし、また同グループのRANが映画『アオショー!』で映画初出演にして初主演を務めていた。こうしたBMSGの映像作品で見せる勢いが、この『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』という作品にも通底しているように感じる。

 “部活もの”でありながら、汗も涙もほとんど流れない。けれど、団体戦が近づくにつれて、ジョニーは少しずつ人と向き合うようになる。その変化は決してドラマチックではないが、気づけば彼がほんの少し前に進んでいることを、観ている側も自然に感じ取れる。

 作中でジョニーが「負けず嫌いではないけど、どちらかというと勝ったほうが嬉しい」と言っていたが、この一言にこの映画の空気が詰まっている気がした。別に全力で頑張らなくてもいいし、うまくいかない日もあるけど、それでも毎日はちゃんと続いていく。ただ、大切な人にはちゃんとさよならを言ってあげたほうがいい。そんなさりげないことを、ふと思い出させてくれる作品だった。

■公開情報
『代々木ジョニーの憂鬱な放課後』
公開中
出演:日穏、今森茉耶、松田実桜、西尾希美、一ノ瀬瑠菜、加藤綾乃、吉井しえる、高橋璃央、瑚々、根矢涼香、平井亜門、綱啓永、中島歩、前田旺志郎、安藤聖、マキタスポーツ
監督・脚本・編集:木村聡志
主題歌:カネヨリマサル「君の恋人になれますように」(Getting Better/Victor Entertainment)
2025/日本/DCP/カラー/シネマスコープ/5.1ch/108min/G
©2025「代々木ジョニーの憂鬱な放課後」製作委員会
公式サイト:yojoni.com
公式X(旧Twitter)@yoyogi_johnny

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