“平成ノスタルジー”がブームに? 『良いこと悪いこと』のポルノグラフィティや遊戯王が話題

“平成ノスタルジー”がドラマトレンド?

 “懐かしさ”は時代によって変化する。元号は平成から令和と変わり、コロナ禍という大きな時代の転換を契機にして、これまで“懐かしさ”の象徴でもあった昭和レトロから、ここ数年は平成レトロが新たなブームを巻き起こしている。

 顕著な例を挙げれば、平成19年に発売されたORANGE RANGEの「イケナイ太陽」令和ver. Music Videoは公開されるやいなや大きな話題となり、公開3カ月ですでに2000万回再生を突破。CMやドラマ、テレビ番組などを中心に72個の“平成あるある”が映像には盛り込まれており、30代や40代に共通する“懐かしさ”が、昭和から平成へと移り変わっていることを感じさせる出来事のひとつでもあった。

 近年、そんな“平成ノスタルジー”をテーマとして取り入れているドラマも多く制作されている。まさに平成ど真ん中の時代が舞台となったNHK連続テレビ小説『おむすび』では、平成元年に生まれたヒロインの米田結(橋本環奈)がハギャレン(博多ギャル連合)メンバーと出会い、ギャルマインドをもって明るさとたくましさを育みながら栄養士を志していく。劇中で結たちが、2000年代初頭に第3次ブームが巻き起こった「パラパラダンス」に取り組む姿は、当時の盛り上がりを覚えている視聴者を中心に大きな反響を呼んだ。

 さらに、秋クールから放送が開始された『良いこと悪いこと』(日本テレビ系)は、まさに“平成ノスタルジー”を全面的に押し出した作品だ。小学6年生のときに埋めたタイムカプセルに入っていた卒業アルバムの6人の顔が黒く塗りつぶされていたことをきっかけに、次々とかつてのクラスメイトが命を狙われていく“ノンストップ考察ミステリー”と銘打たれた本作。主要な登場人物たちの年齢は34歳。小学6年生だった当時は2003年ということになるので、まさに平成カルチャーが色濃く残る時代に、青春を謳歌していた人々の後日談が描かれることになる。

 本作の主題歌に起用されているのはポルノグラフィティの「アゲハ蝶」。2001年にリリースされた本楽曲はポルノグラフィティの代表曲として知られ、20代から30代を中心にカラオケで歌われるなど20年経ってもなお根強い人気を誇っているが、まさか2025年のドラマの主題歌に抜てきされるとは本人たちでさえ思いもよらなかっただろう。

 ほかにも作品内では、アンダーグラフの「ツバサ」やT.M.Revolutionの「HOT LIMIT」が登場人物たちに共通する「懐かしソング」として歌われている。第2話でも主人公・高木(間宮祥太朗)の同級生である中島笑美(松井玲奈)がモーニング娘。の「I WISH」を歌唱しており、平成でヒットした楽曲がコンスタントに登場しているのは、平成の時代を匂わせる演出として意図的なものに違いない。実際、冒頭で武田(水川かたまり)が「ツバサ」のメロディを口ずさんでいるのを聴いたとき、1996年生まれの筆者は思わず「懐かしい」と反応してしまった。

 そんな平成カルチャーは音楽だけにとどまらない。第3話の予告映像で、小学生の高木と親友だった小山(森本慎太郎)が手にしていたのは『遊戯王OCG デュエルモンスターズ』のカード。2011年に「世界で最も販売枚数の多いトレーディングカードゲーム」としてギネスにも認定されるなど、2000年代に爆発的な人気を誇った娯楽のひとつであり、当時の少年たちの多くはレトロスナック“イマクニ”の店主・今國(戸塚純貴)の言うように「デュエリスト」だった。恐らく次回の放送を童心に返るような気持ちで観ることになる視聴者も多いはずだ。

 2000年代に青春時代を過ごしたであろう20代後半〜40代前半の人々にとって、本作に登場する平成カルチャーの数々は子どもの頃の思い出を振り返るきっかけとなっている。一方で10代〜20代前半の人々にとって、平成カルチャーに息づく独特のポップさや明るさは、“懐かしさ”ではなく“新しさ”として受けとめられているようだ。TikTokでの流行や『THE FIRST TAKE』への出演をきっかけに、平成の楽曲がリバイバルヒットする事例も数多く存在している。

 ここまで“平成ノスタルジー”がドラマで取り入れられる要因のひとつには、エンタメやカルチャーを横断した“懐かしさ”や“新しさ”を入口にして、物語の世界に視聴者を取り込む狙いがあるように思う。

 ドラマは時代を映す鑑でありながら、特定の年代を懐かしむ共通言語にもなりうる。そのため、“平成ノスタルジー”が詰め込まれた作品は、YouTubeやSNSに慣れ親しんだ若年層を再びテレビドラマに惹きつけるためのトレンドのひとつになるかもしれない。

『良いこと悪いこと』の画像

良いこと悪いこと

ガクカワサキが脚本を手がけるノンストップ考察ミステリー。小学校の同窓会で、連続不審死が発生。同級生全員が容疑者となる中、犯人を巡る探り合いが始まる。

■放送情報
『良いこと悪いこと』
日本テレビ系にて、毎週土曜21:00~放送
出演:間宮祥太朗、新木優子、森本慎太郎(SixTONES)、深川麻衣、戸塚純貴、剛力彩芽、木村昴、藤間爽子、工藤阿須加、松井玲奈、稲葉友、森優作、水川かたまり(空気階段)ほか
脚本:ガクカワサキ
演出:狩山俊輔、滝本憲吾、長野晋也
プロデューサー:鈴木将大、妙円園洋輝
チーフプロデューサー:道坂忠久
音楽:Jun Futamata
制作協力:ダブ
©日本テレビ
公式X(旧Twitter):@iiwaru_ntv
公式Instagram:@iiwaru_ntv
公式TikTok:@iiwaru_ntv
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/iiwaru/

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