『E.T.』が築いた現代エンタメの“礎“ 1980年代のカルチャーに与えた多大な影響とは?

『E.T.』が築いた現代エンタメの“礎“

「クリーチャー」に命を与えた表現技術

『E.T.』©1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

 CG全盛の現代、私たちは映像でのリアルなクリーチャー表現に慣れ親しんでいる。この源流は、1970年代、1980年代の観客が体験した『E.T.』などのSF映画にある。『E.T.』でリアリティを実現した特殊撮影(特撮)技術の一つとして「アニマトロニクス」が知られている。アニマトロニクスは、アニメーションとエレクトロニクスを組み合わせた技術で、ロボットを人工皮膚で覆って動かし、演技させるものだ。ある意味、CGとは真逆の存在である。アニマトロニクスで生み出された異星人(E.T.)は、CGとは決定的に違い、物理的な存在感を持っているのが特徴だ。

 エリオット役のヘンリー・トーマスをはじめとする子役、俳優たちは、アニマトロニクスにより実際に目の前に存在している異星人(E.T.)の仕草に反応し、演技することができた。生き生きとした相互作用により、異星人(E.T.)はたんなる作り物ではない生命感を得ることができ、そして映画にリアリティが付与されたのだと思う。

『ジュラシック・パーク』© 1993 UNIVERSAL CITY STUDIOS, INC. AND AMBLIN ENTERTAINMENT, INC. All Rights

 この体験は、スピルバーグ自身のキャリアにおいても大きな転換点となったのではないだろうか。後の『ジュラシック・パーク』(1993年)における恐竜たちの表現は、アニマトロニクスと黎明期のCGを融合させたものであり、映画史を大きく前進させることになった。近年になると、ドラマ『マンダロリアン』(2019年〜)に登場するグローグー(ベビーヨーダ)が、最新技術とパペット操作を組み合わせることで世界を魅了したように、物理的な存在があることで、特撮映画の映像には不思議な化学反応が起き、リアリティが生じるのである。

 『E.T.』の魅力は技術だけではなく、その造形にもある。イタリア出身の視覚効果アーティストのカルロ・ランバルディがデザインしたといわれる異星人(E.T.)の顔は、詩人カール・サンドバーグ、物理学者アルベルト・アインシュタイン、作家アーネスト・ヘミングウェイの顔を組み合わせて創り出されたといわれている。一部資料によるとパグ犬の顔も参照されているという。深い知性と、どこか物悲しい雰囲気、相反するような愛嬌を感じさせる表情は人の目を引き付ける。そして、異星人(E.T.)の印象的な声には様々な音が使われている。メイン声優は女優パット・ウェルシュが担当した。彼女は長年の喫煙で特徴的な声質になっていたという。

 こうしたアナログで職人的な要素が幾重にも合わさって、異星人(E.T.)は人形ではなく、血の通った一個の生命体として映画に登場することになったのである。現代のCGに慣れた目で見ると逆に斬新な映像と感じられるから不思議だ。

サブカルチャーの引用とクロスオーバー

『E.T.』©1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

 『E.T.』は、当時のアメリカのサブカルチャーを巧みに取り込み、物語に深みと時代性を与えた点でも画期的だった。そして、その引用自体が伝説となり、後世の作品に影響を与えたのもおもしろい。

 その象徴が、物語の冒頭でエリオットの兄マイケルたちが興じているテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』(以下、『D&D』)だ。『D&D』は、1974年に発売された世界で最初のロールプレイングゲーム(RPG)でジャンルの原点となる作品である。

 『E.T.』に『D&D』が登場するのは、時代背景を示す小道具としてだけでなく、RPG的な未知なる存在との遭遇や、仲間との協力、困難なクエストの達成といったRPGの要素が、エリオットと異星人(E.T.)の物語全体の構造を示すメタファーとなっている。流行したものを作品に取り入れ、さり気なく作品の世界観を示す手法が広まったのは『E.T.』の影響といえるだろう。ちなみに、『D&D』は、2023年に『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』として映画化されている。

 そして、のちにファンを喜ばせたのが『スター・ウォーズ』とのクロスオーバーである。『E.T.』には、ハロウィンの夜、街でヨーダの仮装をした子供を見つけた異星人(E.T.)が、故郷の友人に会ったかのように「Home……」とつぶやいて駆け寄るシーンがある。ヨーダといえば、『スター・ウォーズ 帝国の逆襲』(1980年)から『スター・ウォーズ』シリーズに登場するジェダイ・マスター。これのクロスオーバーはスピルバーグと『スター・ウォーズ』の生みの親・ジョージ・ルーカスが親友だったことから生まれている。

 そして、ルーカスは自身の『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(1999年)の銀河議会のシーンに、異星人(E.T.)の種族をカメオ出演させた。クリエイター同士の遊び心がファンを喜ばせると同時に、1982年公開の『E.T.』が1999年にあらためてその影響力を示す形にもなった。

 ここまで見てきたように、『E.T.』は普遍的な物語の型、革新的な映像技術、そしてカルチャーの引用という多層的な側面から、後世の作品多くの影響を与え続けてきたことがわかる。エリオットと異星人(E.T.)の友情や月明かりの中、自転車で夜空を飛んだシーンは、40年の時を経てもなお、私たちの心に新しい驚きと感動をもたらしてくれている。

■放送情報
『E.T.』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、10月10日(金)21:30~23:34放送
※放送枠10分拡大
出演:ヘンリー・トーマス(エリオット役/声:浪川大輔)、ディー・ウォレス(メアリー役/声:駒塚由衣)、ロバート・マクノートン(マイケル役/声:鳥海勝美)、ドリュー・バリモア(ガーティ役/声:藤枝成子)、ピーター・コヨーテ(鍵の男役/声:安田隆)、K・C・マーテル(グレッグ役/声:杉元直樹)、ショーン・フライ(スティーブ役/声:岩田光央)、トム・ハウエル(タイラー役/声:菊池英博)、エリカ・エレニアック(プリティ・ガール/声:村田彩)、E.T.(声:高橋和枝)
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:メリッサ・マシスン
製作:スティーヴン・スピルバーグ、キャスリーン・ケネディ
音楽:ジョン・ウィリアムズ
©1982 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

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