『宝島』『遠い山なみの光』『ちはやふる』 “多作イヤー”が示す広瀬すずのキャリアの新局面

『宝島』は、真藤順丈による直木賞受賞作の映画化作品。1950年代から1970年代にかけての沖縄を舞台にした群像劇だ。米軍統治下の混乱期に「英雄」と呼ばれた若者・オン(永山瑛太)を軸に、グスク(妻夫木聡)やレイ(窪田正孝)といった仲間たちが翻弄されながらも希望を求めて生きる姿を、20年という歳月をかけて描き出す。抗えない歴史のうねりと、そこに飲み込まれながらも必死に足掻く若者たちの姿は、沖縄の戦後史そのものを象徴している。
広瀬すずが演じるのは、ヒロインのヤマコ。オンの恋人であり、グスクたちの幼なじみであり、仲間たちの心を結びつける存在だ。やがて彼女は教師として子どもたちに向き合いながら、沖縄に根を下ろして生き続ける。故郷を離れずに時代の変化を見届けてきたヤマコは、戦後沖縄の記憶を体現する“生き証人”のような存在として物語に立ち現れる。

ポイントは、この物語が20年という歳月をかけて紡がれていくことだ。まだティーンエイジャーだった頃のヤマコは、『海街diary』や『ちはやふる』で示してきた“青春の透明感”そのもの。そこから大人へと成長するにつれ、『阿修羅のごとく』や『ゆきてかへらぬ』で体現したような、苛烈な時代を生き抜く女性の疲労感と芯の強さをまとっていく。
そして物語の終盤では、沖縄の基地問題に積極的に関わり、自ら声を上げて闘う女性へと変貌する。広瀬はその過程を、声のトーンや表情の陰影に細やかな変化を与えながら演じ分け、ヤマコという人物を単なるヒロインにとどまらない「時代とともに闘う存在」へと押し上げている。
『宝島』には、広瀬すずがこれまで培ってきたさまざまな表現の顔が刻まれている。無垢な透明感から、時代にすり減らされた疲労感、そして声を上げて闘う強さまで。その変化の幅をひとつの役柄に凝縮することで、彼女はキャリアの新しい到達点を示しているのだ
2025年の多作イヤーは、単に出演作が多いだけではない。広瀬すずという女優の現在地と未来を力強く照らし出す、まさに転換点と呼ぶにふさわしい1年となっている。
■公開情報
『宝島』
全国公開中
出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太、塚本晋也、中村蒼、瀧内公美、栄莉弥、尚玄、ピエール瀧、木幡竜、奥野瑛太、村田秀亮、デリック・ドーバー
監督:大友啓史
原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)
配給:東映/ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会
公式サイト:https://www.takarajima-movie.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/takarajimamovie





















