『コンフィデンスマン』日韓の最大の違いは? 韓国版が描いた“過去”の重み

JP版のダー子は過去の経歴、本名は一切不明である。ふとしたときに自分が天涯孤独であるような発言や、ボクちゃんやリチャードと幼少期から知り合いであるようなことを語っているが、エピソードとして掘り下げられない。そもそもエキセントリックなダー子のこの発言が真実であるとも思えない。他方でイランの過去は、KR版の展開において重要な鍵を握る。実はイランは財閥の一人娘であり、ジェームズことソ・インジェは幼い彼女のボディーガードだった。ところが、遊園地で開催されたイランの誕生日パーティーの日、イランは何者かに誘拐されてしまう。ソ・インジェの活躍で無事救い出されたが、この日を境に二人の人生は大きく変わってしまうのだった。成長してソ・インジェと再会したイランが詐欺を働いているのは、このときの犯人を「復讐のため」に探しているからだった。

そして、いつもは最年少としていじられ役のグホにもまた、本人も知らない不穏な過去があった。ダー子の過去を一切仄めかさず完全にケイパーコメディに振り切ったJP版か、コメディもミステリーもと多くのエンタメ要素を盛り込む欲張りなKR版か、評価が分かれるところだろう。異なるジャンルのトーンを上手く融合できていないところが、KR版の人気が今ひとつになってしまっている点なのかもしれないが、いくら義賊であるとはいえ詐欺を働くにはそれなりの理由がほしいところだ。ドラマや映画のキャラクターに厚みを持たせてリアルに造形しようとする、韓国ドラマの現場ならではのオリジナリティとも言える。
JP版が初放送された2018年当時と比べて、ドラマを時代に合わせてフィットさせたところも、今観る面白さがある。特に第7話〜8話では、美容業界のスターである化粧品会社社長キル・ミイン(オ・ナラ)がインフルエンサーたちを都合良く使ったり、また訴えられるも巧妙な手口で逆に名誉毀損で提訴するといった悪行が登場する。ミインは裁判に勝利するが、実は彼女がデジタルフォレンジック(削除されたデータの復元やログ解析などを行い、法的手続きで有効な証拠を確保します)として裁判所に提出した証拠は偽造されたものだった。驚がくするグホにジェームズは「AIの時代、いくらでも証拠は作れるんだ」と言い放つ。このエピソードは、フォロワー数を誇るインフルエンサーが芸能人顔負けのステイタスを持つ現代を象徴していることと、SNSやインターネットの普及でフェイクかどうかの見分けがよりつきにくくなった今日ではJP版で登場した手口以上に詐欺が巧妙化し、悪事の非道ぶりが増していることを語っている。こうしたアクチュアルなテーマをすぐさま取り入れるのも韓国ドラマらしい。

またハニートラップに成功したことのないダー子は、ボクちゃんから「エロババア」呼ばわりされているが、KR版では若干言葉がソフトになっている。2018年から7年経ち、言葉に対する印象はかなり変化した。このあたりにも時代感覚へのアップデートがだいぶ感じられて好もしさがある。
『コンフィデンスマンKR』は、JP版とは違うオリジナリティと、俳優たちの新鮮な顔が楽しめるドラマだ。その魅力は数字には現れてこないが、観てみる価値は充分ある作品なのではないか。
■配信情報
『コンフィデンスマンKR』
Prime Videoにて配信中
出演:パク・ミニョン、パク・ヒスン、チュ・ジョンヒョク
脚本:ホン・スンヒョン、キム・ダへ
演出:ナム・ギフン
原作:2018年 フジテレビ系ドラマ『コンフィデンスマンJP』
制作:TME Group
共同制作:the fifthwall studio, ghost4
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