『サユリ』『THE HAND』『ヒロシの心霊キャンプ』 怖さで残暑を吹き飛ばす必見ホラー3作

怖さで残暑を吹き飛ばす必見ホラー3作

 命の危険を感じるほどに暑い。こんなときは、怖い思いをして肝を冷やすのが一番だ。とっておきのホラーを3作を送りつける。

『サユリ』

映画『サユリ』│ 2024年11月22日 DMM TVにて独占配信

 まず1本目は、『サユリ』である。2024年に公開された、白石晃士監督の作品だ。白石監督といえば、最新監督作『近畿地方のある場所について』が絶賛公開中である。この作品での菅野美穂のフルスロットル演技にハマった方ならば、ぜひこの『サユリ』を観てもらいたい。いや本音を言うと、老若男女問わず全人類に観てもらいたい。それぐらい、この作品は面白い。厳密にはR15+指定なのでローティーンの少年少女は観られないが、15歳の誕生日とともに観てほしい。

 まず本作は、ホラー映画として容赦なく恐ろしい。そこはなにしろあの『ノロイ』(2005年)の白石監督なので、間違いない。『ノロイ』は、できることなら記憶から抹消したいぐらいに恐ろしかった。本作の前半部も、一切妥協のない恐怖と絶望感にあふれている。もうちょっと手心というか手加減というか侘び寂びというか、そんな日本人的な忖度も欲しいところだが、白石監督にそんな気遣いはない。ノンストップの恐怖演出に、こちらはついていくのがやっとである。

『サユリ』

 本作は、中古の一軒家にある幸せそうな家族が引っ越してくるところから始まる。夢のマイホームに一家が浮かれたのもつかの間、怒涛のように家族が死んでいく。父→祖父→次男→長女→母と、約1時間の間に息つく間もなく不審死を遂げていく。次男・神木俊役の猪股怜生がとてもかわいいので、この子が高所から転落し、Jホラーによくある手足が折れ曲がった死体になるシーンは、さすがに目をそらした。

 この家には、この世に深い深い恨みを残して死んだ「サユリ」という女性の怨霊が取り憑いていた。残ったのは、中学3年生の長男・則雄(南出凌嘉)と、認知症のばあちゃん(根岸季衣)だけである。絶望に崩れ落ちそうになる則雄を、突然ばあちゃんが腰の入った前蹴りで蹴り跳ばし、喝を入れる。突然のばあちゃん覚醒!

 このばあちゃんがめちゃくちゃカッコいい。元々太極拳の師範であり、戦闘力も高い。おせっかいお隣さんがつれてきたうさん臭い霊媒師も、あっさりと撃退する。掌底でアゴをかち上げ、そのまま同じ腕でみぞおちへヒジを入れる。アゴを上げられると腹筋が伸びてゆるむ。そこへの打撃は強烈に効く。中国武術は、映画だと無駄に派手に描かれがちだが、この地に足のついた描写には好感が持てる。近年でこそおばあちゃん役が多くなった根岸季衣だが、昔はつかこうへいの芝居でヒロインを張っていた、カッコいい女優さんだったのだ。

 ばあちゃん曰く、怨霊に対抗できるものは、人間の生命力らしい。よく笑い、太極拳で体を鍛え、命を濃くする。死んだ家族たちは、みな疲れたり気弱になったところを突かれたのだ。ばあちゃん曰く「よく食べ、よく寝て、よく生きる。毎日走り、外気に触れ、心の臓を動かす」ことが肝要だ。サユリの霊はちょくちょく現れるが、ばあちゃんは動じず、則雄に「命が乗った言葉を叩きつけろ」と促す。則雄は、とてもここには書けないド直球の下ネタを叫ぶ。

『サユリ』

 本来なら眉をひそめるようなド下ネタに、まさか感動してしまうとは思わなかった。下ネタ=性および生殖行為=生命力である。新たな命を作り出す生殖行為は、人間の生命力の最たるものだ。怨霊を撃退するには、もっとも効果的だ。

 だからこそ、則雄の同級生・住田(近藤華)がサユリに取り込まれたときの、則雄の叫びが胸に突き刺さる。「住田、好きだ! 住田とくっつきたい! 住田とやりたい! 一緒にやりたい! 俺たちはな、お前と違って生きてんだよ!」。

 上品とか下品とか、もはやそんな些末なことはどうでもいい。本作は、究極の人間賛歌だ。ホラーが嫌いでも、下ネタが苦手でも、騙されたと思って一度は観てほしい。

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