『近畿地方のある場所について』をめぐる“創造のサイクル” 白石晃士が描いた拡散の恐怖

少女の行方不明記事と奇妙な目撃証言、林間学校での中学生の集団ヒステリー事件、動画サイトに書き込まれた気持ちの悪いコメント、そしてオカルト雑誌編集者の失踪……。それぞれに不気味な怪異が、“ある場所”に向かって全てが線で繋がっていくオムニバスホラー小説、『近畿地方のある場所について』。WEB小説サイト「カクヨム」での投稿で注目を集めた作品であり、書籍化されるや大ヒットを果たし、コミカライズもおこなわれた。
その魅力的な内容から、映画化企画がいくつも立ち上がり争奪戦が繰り広げられたというが、そんなヒット作の映画版が、ついに劇場で公開された。ここでは、本作『近畿地方のある場所について』について、もともとの画期的な要素や、映画版ならではの特徴を見ていきながら、その真価を明らかにしていきたい。
※本記事では、『近畿地方のある場所について』のストーリー展開を一部明かしている箇所があります。
オカルト雑誌の編集者が行方不明になる事件が、ストーリーの発端だ。彼が姿を消す前に調べていたのは、過去の未解決事件や怪現象の数々。オカルトライターの瀬野千紘(菅野美穂)は、編集者の小沢(赤楚衛二)に依頼され、記事を担当することに。ふたりは取材をしながら、失踪した編集者が残した不気味な資料の数々を調べていく。
心霊スポット「首吊り屋敷」での動画配信騒動、林間学校で撮られたホームビデオ、TVカメラが映した異様な風習、異様なアニメ作品の放送、そして「見たら死ぬ動画」の存在などなど、劇場版では映像での表現が可能になり、恐怖演出の幅が大きく広がった。とりわけ「資料映像」の作り込みのレベルが非常に高く、現在「モキュメンタリーブーム」で注目される作品群のなかでも、一線を画す出来になっている。
それもそのはずで、本作を手掛けている監督は、日本の「モキュメンタリーホラー」の第一人者である白石晃士なのだ。白石監督は、ビデオシリーズ作品『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』や、極端にエクストリームな企画『貞子vs伽椰子』(2016年)、破壊的なホラー作品『サユリ』(2024年)など、ユーモアを作品に反映させるイメージが強く、それは本作でも一部活かされているが、それらの作品を観ても分かるように、怖い表現もしっかり怖く撮ることができる。
本作の表現では、やはり「見たら死ぬ動画」の完成度が素晴らしい。『リング』(1998年)に登場する「呪いのビデオ」は、その種の不気味な表現として、一つの金字塔と言ってもいい出来だったが、ここでは、より現代的な素材を駆使して、ノイズや音響を盛り上げる要素として使うのでなく、それ自体をも動画の重要な構成要素として、繊細にチューニングされている。そのおかげで、感度の高い映像作品として、「呪いのビデオ」を更新したといえるだろう。
また、首が折れ曲がった人物の怪しい挙動や、赤い服の女が自室のベランダで謎の動作をしていることを外から目撃してしまう展開など、バラエティ豊かな恐怖表現も楽しめる。とくに白石監督も得意な「ヒトコワ」系のホラー要素も、もちろんふんだんに用意されている。






















