『あんぱん』八木×蘭子が示す“愛するカタチ” 嵩にとって“詩の源”となるみんなの愛

『あんぱん』(NHK総合)第22週「愛するカタチ」は、愛に関する洞察を含む。8月26日放送の第107話では、嵩(北村匠海)の詩集『愛する歌』出版のいきさつが描かれた。

嵩の詩を読んだ八木(妻夫木聡)は、「もっと詩を書け」と催促する。のぶ(今田美桜)に「書きたいものを書けばいい」と言われて吹っ切れたのか、嵩の頭にはアイデアが次々と浮かぶ。「これまで出会った人たちが僕の詩の源」「みんなの顔を思い浮かべると言葉がどんどん浮かぶんだ。あふれてくるんだよ」と嵩。もちろん、のぶもその中に入っている。

嵩のイラストと詩が入ったマグカップや皿は好評を博し、八木は出版部門の設立を決意。第1弾はやないたかしの詩集である。「戦争を経験した俺たちの会社の目標は、人を幸せにすること」と話す八木には、秘めた思いがあった。
嵩の詩が八木の目に触れたきっかけは蘭子(河合優実)だった。蘭子と八木の会話。子どもたちを心の底から抱きしめる真意を尋ねると、八木はこう答える。
「この世の中で子供たちが生きていくのに必要なのは、まずは栄養のある食べ物、住まい。そして音楽に物語に、詩」
八木は戦争で傷ついた子どもたちの心を潤すことを自身の務めとし、根底にこんな哲学を持っていた。蘭子が言う「精神の栄養」に加えて、八木は「もう一つ必要なのは、人の体温」と言う。八木自身の口で「親から無条件に与えられるぬくもり」と表現されるそれを、無償の愛と言い換えることも可能だろう。愛されることを知らなければ、人を愛することは難しい。八木は、愛されてこの世界にいることを、子どもたちに伝えたかったのではないだろうか。

ただし、蘭子はそこに別のものを感じた。与えることによってしか癒せない孤独。妻と子を戦争で失い、他者に我が身を差し出すことで生きる意味を見出すような、深く重い絶望。八木が魂の奥底で愛を求めていることに気づいたのは、蘭子も同じような経験をしたからだ。
「八木さんを誰か抱きしめてくれる人は」と聞かれて、八木は柄にもなく動揺し、蘭子も自分の言葉に戸惑っていたが、2人の運命はすでに重なりつつあるように思える。
「あなた」や「キミ」を、土や水、トンカツと同じくらい愛する嵩の『愛する歌』が、「うれしいんだもん」のメルヘンとして受容・消費されないためには、八木と蘭子のくだりが不可欠だった。あんのようなずっしりとした中身と子どもに喜ばれる軽妙さ。『あんぱん』には愛が詰まっている。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















