甲田まひる×浜崎慎治監督、映画『バババ』対談 「ナツロス」誕生秘話と創作への向き合い方

甲田まひる×浜崎慎治、映画『バババ』対談

 吉沢亮主演の実写映画『ババンババンバンバンパイア』(以下、『バババ』)が絶賛公開中だ。本作は、『別冊少年チャンピオン』(秋田書店)で連載中の奥嶋ひろまさによる同名コミックを原作とした“バンパイアラブコメディ”。銭湯で働く美しきバンパイア・森蘭丸を吉沢、天真爛漫なピュアボーイ・立野李仁役を板垣李光人、李仁の初恋相手で蘭丸の正体を疑い始める篠塚葵役を原菜乃華がそれぞれ演じている。

 本作の印象的な挿入歌「ナツロス」を手がけているのは、シンガーソングライターの甲田まひる。物語の大きな転換点で流れるこの楽曲が、登場人物たちの心情や季節の空気感を鮮やかに彩っているのも大きな魅力となっている。今回は挿入歌を担当した甲田と監督を務めた浜崎慎治に、二人の出会いのきっかけやお互いの印象、「ナツロス」制作の裏側、そしてそれぞれの創作観についてじっくり話を聞いた。

“ギリギリのところ”を攻めた『ババンババンバンバンパイア』

――全体に緊張感が漂っている一方で、コミカルな要素も随所に感じられました。甲田さんは何度も映画をご覧になっているそうですね。

甲田まひる(以下、甲田):私は曲作りの過程で何度も映像を見せていただいていたんですけど、映画館で観たときは自分が一番大きな声で笑っていましたね(笑)。初日に友人やマネージャーさんと観に行ったんですが、後ろの席がギャル5人組で、みんなで一緒に爆笑してしまって。なんだか、みんなで観に来たみたいな雰囲気になっていました。私は結構リアクションしちゃうタイプなのですが、『バババ』は全然声を出しても違和感がない雰囲気でした。

浜崎慎治(以下、浜崎):日本って、どうしても抑えがちですよね。「くくく……」みたいな小さな笑い方が多いというか。だから海外とはちょっと違う雰囲気があるかもしれません。人に迷惑をかけちゃいけない、みたいな感覚が強いのかな。

甲田:私はそれが嫌なので、あえて声を出して笑うようにしています(笑)。

浜崎:それ、すごく大事ですよね。僕はコメディ作品なんだから、みんなもっと自由に笑ってもいいんじゃないかなって思うんです。

(左から)浜崎慎治、甲田まひる

――観客のリアクションや笑いは、制作サイドとしても意識されていたのでしょうか?

浜崎:そうですね。僕はCMの仕事も多いんですが、CMって一日に何千、何万本も流れていくので、その中でどうやって記憶に残すかがすごく大事なんです。やっぱり「楽しい」とか「面白い」と感じてもらえる映像でないと、記憶に残らないと思っていて。今回の映画も“楽しんでもらいたい”という気持ちで作りました。でも、面白さってすごく難しくて、人によって全然ツボが違うんですよね。この人は爆笑してくれるけど、別の人には全く響かない、みたいなことも多い。だからこそ、いろんな“笑いのネタ”をちりばめて、多くの人に楽しんでもらえるよう心がけています。

――確かに、特に下ネタやシュールな笑いは人によって受け取り方が違いますよね。

浜崎:そうですね。「これ、ボケてるのに真面目に受け取られちゃう」とか、昔はもっと体を張ったり、人をけなしたりする笑いが多かったけど、今は難しいと感じます。時代や世代によって笑いの捉え方も変わってきていて、今は「これ、笑っていいのかな?」と一瞬考えてしまう人も多いですよね。コメディ作品って好き嫌いがはっきり出やすいけど、できるだけ多くの人に届いてほしい。そのためにも、いろんな種類の笑いを仕込むようにしています。

――今回の作品については、笑いのバランスをかなり意識して配置されているように感じました。

甲田:本当にギリギリのところを攻めてますよね(笑)。

浜崎:そうそう。たとえばお風呂のシーンとかね、なかなか際どい部分もあるんです。でも、あのくらいはアリかなっていう感覚もあって。

甲田:最後のプレゼント交換の場面もかなり攻めてるなって思いました。観ている側としては、やっぱり少し振り切っているぐらいのほうが面白いなって思っちゃうんです。もちろん、世間的には厳しい意見もあるかもしれませんけど。

浜崎:映画って暗闇の中でみんなで観るけど、ちょっと自分だけが笑っちゃうような、突き抜けたものがあってもいいと思うんですよね。

甲田:エンタメでそういうギリギリができなかったら、他にどこで表現できるんだろうって思います。

浜崎:本当にそうなんですよ。最近はテレビの規制も厳しくなってきているので、なかなか挑戦的な表現が難しくなっている。でも、映画ならではの表現があってもいいんじゃないかと思うんです。この作品自体も、バンパイアという設定を土台にしつつ、普通のバンパイア像とは少し違う。“純血”の扱いとか、一般的には女性の処女性を狙うモチーフが多いですけど、今回は男性の童貞=ピュアな血という逆転の発想が面白いですよね。その設定を楽しんでもらえたら、本来の面白さを味わってもらえると思います。

甲田:しかもBL要素もあるというのも、今っぽいテーマですよね。題材も現代的で、刺さる人はかなりいるんじゃないかと思います。

浜崎:すごく“今”っぽい部分もありつつ、ちょっと昔の雰囲気もある作品。BLというジャンルも、今ではすっかりメジャーになりましたし、今はどんな方でも楽しめる時代。もっと自由に、先入観なく受け取ってもらえたら嬉しいです。

映画のテーマとマッチした挿入歌「ナツロス」制作秘話

――改めてお二人の出会いのきっかけについて教えてください。

浜崎:僕がCMを手掛けていた時期に、レコード会社の方から「au三太郎」のお正月の曲を担当する若手アーティストを探しているんだけど……と相談したところで紹介していただいたのがきっかけです。ちょうど今回の映画でも、夏祭りの前に蘭丸(吉沢亮)と李仁(板垣李光人)の少し切ないシーンがあって、その“夏の切なさ”を表現できる方を探していました。そこで相談したら、「甲田さんがいいんじゃないか」と推薦してくださって。実際に曲をいくつか聴かせてもらったんですが、「California」と「Snowdome」という曲が今回の世界観にとても合いそうだなと。それで甲田さんにお願いしたら、快く引き受けていただいて。僕自身、若いアーティストに明るいわけではないんですが、こんな素敵な方がいるんだと驚きました。

甲田:嬉しいです……!

(左から)浜崎慎治、甲田まひる

――お二人が初めてお会いしたのはいつ頃だったのでしょうか?

甲田:去年の秋ですね。

浜崎:最初はリモートでご挨拶でしたよね。アーティストの方とコラボさせてもらうときって、どんな人なのか最初は分からないので、こっちもドキドキしてしまって。「これはちょっとできません」とか言われたらどうしよう、みたいな(笑)。でも実際お話してみたら、すごくコミュニケーションも取りやすくて。やりやすかったです。アーティストの方って、自分のやりたいことも絶対あるでしょうし、一方で映画の中の音楽として求められることもある。だから、最初のうちは「どこまで自分の色を出していいのかな」って葛藤もきっとあるだろうなと思いながらやっていました。でも、甲田さんは本当にいろいろ話を聞いてくれて、やりやすかったですね。

甲田:お話いただいた時から「このシーンは大事で……」って監督も言ってくださって。最初のリモートでのご挨拶の時、監督の部屋の画面がハロウィン仕様になってたのを覚えてます(笑)。

浜崎:そうそう(笑)。あれ、ハロウィンの時期でもなかったんだけど、たまたまラグにおばけのキャラクターがいて。それをすぐにツッコんでくれて。そういうところもありがたかったです。なかなかそういうの、初対面だと指摘しない人も多いけど、甲田さんは「なんですかこれ?」って(笑)。

甲田:ああいうやり取りができると、こっちも「曲も思い切って面白くしていいんだな」って思えました。本当に、相手の人柄を見ると、どのくらい自分の色を出していいのか、ぶっ飛ばしていいのか、分かるんですよね。笑顔があふれる現場だと、頑張ろうと思えますし。作品自体もぶっ飛んだ世界観だなと感じていたんですけど、監督と話してみて、そのテンション感とか温度感が掴めたことで、「どこまでやっていいのか」「こういうの好きそうかな」と想像しやすくなりました。

浜崎:そこが一番ありがたいんですよ。人柄は重要ですよね。はじめましてだと、やっぱり最初はどこが落とし所なのか探り探りなんです。毎日会っている人なら好みも分かるけど、初対面だとそうはいかない。でも甲田さんは音楽の引き出しも多いし、レスポンスも早い。やっぱり自分でピアノもやるし、トラックも作れる。だから、誰かが間に入ることもなくスムーズに進んだのがありがたかったですね。

甲田:そこは大きいですよね。誰かを通すと、どうしても言葉だけでは伝わらないニュアンスって出てくるので。音楽を作る側じゃない方が「こうしてほしい」と言葉で伝えるのはすごく難しいと思うんです。「切ない感じで」って言われても、「どのくらい?」ってなりますし、リファレンスを出してもそれを超えるのってすごく感覚的な部分なので。でも、会話しながらだと、確実に良いものになる気がします。

浜崎:やっぱり話せば話すほど、作品も良くなる。今回、それを実感しました。

甲田まひる (Mahiru Coda) - ナツロス (Official Music Video) 【映画『#ババンババンバンバンパイア』挿入歌】

――監督から“夏祭り”をテーマにしたいというリクエストがあったと伺いましたが、楽曲制作はどのように進めたのでしょうか?

甲田:やっぱりゼロから自分の好きな曲を作るのとは全然違いますね。アニメのタイアップソングなどは経験がありましたが、動いている人間がいる映像に合わせるというのは、ドラマともまた違った難しさがありました。特に挿入歌って、物語の流れの中で役割がはっきりしているので。毎回大事にしているのは、必ず原作を読み込んで、台本もしっかり理解してから書くこと。今回の漫画もすごく面白くて、一日で全巻読んでしまったんです。その上で、自分なりに相関図を紙に書いたり、キーワードをメモしたりして頭の中に物語を叩き込みました。映像もいただいてから何度も見直して、そこから歌詞を修正したりと、本当に当て書きの作業でした。でも、今回は“夏祭り”や“夏”、“ちょっとした恋”といった題材があるぶん書きやすくて、むしろ楽しかったです。

浜崎:自分はオーダーする側なので楽なんですけど、状況がかなり絞られるので、受ける側は大変だったのではと……。

甲田:アハハ(笑)。でも監督はすごく優しくて、要望やキーワードも明確に伝えてくださるので助かりました。「こういう言葉を入れてほしい」とか具体的にいただけると、逆にやりやすいですね。

浜崎:よかったです。今回も「ズキューン」みたいなキーワードを盛り込んでいただいて、「ここでズキューンが来るんだ!」と驚きました(笑)。

甲田:私自身、人を楽しませたいという思いが強いので、監督に気に入ってもらえたらベストだなって。何度でも書き直すつもりで臨みましたし、「曲調を変えてほしい」と言われても全然大丈夫でした。

浜崎:今回の曲もすごくポップだけど、どこか懐かしい感じもあって、まさに映画のテーマとマッチしていました。若い才能とこうしてコラボレーションできたことは、僕にとっても大きな財産ですし、本当に一期一会だなと感じます。作り手としては大変だったと思うけれど、素晴らしい曲に仕上げてくれて感謝しています。

甲田:本当に良かったです。ありがとうございました。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる