『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』“巨大イナゴ”の謎 生物工学の立場から検証

『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(以下、『新たなる支配者』)が7月19日の『土曜プレミアム』(フジテレビ系)で放送される。

『ジュラシック・パーク』シリーズの6作目にあたると同時に『ジュラシック・ワールド』3部作の3作目として、過去の作品全てを結びつける大完結編となる位置づけを持つ本作。シリーズの核である恐竜パニックに加え、現代的なバイオテクノロジーの脅威も描き話題となった。なんといっても、恐竜に加えて「巨大イナゴ」という新たな脅威が登場するのが興味深い。そこで、ややネタバレに踏み込む形でこの巨大イナゴについて考察してみたい。
恐竜を超える存在!? 「巨大イナゴ」の衝撃

冒頭、巨大イナゴと記したが、作中のセリフでは「locusts」または「the locusts」と呼ばれることが多い。「locust」を辞書で引くと、イナゴというより「ワタリバッタ」「トビバッタ」ということが分かる。歴史的経緯もあり、日本では訳語として「イナゴ」が用いられて巨大イナゴと表現されているが、正体はバッタである。ほとんどの観客は「気味が悪いから、イナゴでもバッタでもどちらでもいいよ」と思っているかもしれないが、本記事では巨大イナゴと表記したい。
『新たなる支配者』に登場する巨大イナゴを少しネタバレ気味に説明すると、バイオシン社が白亜紀の巨大イナゴDNAと現代のイナゴを融合させて作り出した遺伝子改造昆虫のことである。最大の特徴は「特定企業(バイオシン社)の作物を避けて、他を食い荒らす」という遺伝子操作が施されていることにある。つまり、企業の市場独占用の戦略ツールとして機能する兵器的な存在である。本作では恐竜以上に身近な脅威として描かれ、恐竜パニック映画に社会派SF作品としての趣を加え、現代の過熱気味のバイオテクノロジーへの問題提起をしているのだ。作中で巨大イナゴは群れをなして各地の農場を襲撃し、食糧危機を誘発させる。これにより、バイオシン社は農業マーケットの独占を図ろうとするのである。狡猾かつミエミエの策である。

実際のところ、ワタリバッタは白亜紀のDNAを融合しなくても、巨大化しなくても、厄介かつ危険な害虫として知られている。一部のバッタ類は、相変異を起こして大量発生し「蝗害(こうがい)」と呼ばれる災害を起こす。世界中で今も蝗害は発生し続けており、人々の命を脅かしている。(※1) イナゴ(バッタ)は小さくても恐ろしい存在なのである。これが巨大化してしまったら手に負えない。
白亜紀のDNAを使って巨大イナゴを復活させられるのか?
では、本作のように、白亜紀の巨大イナゴDNAを使い、古代種のイナゴを特定の企業にとって都合よく復活させられるのか、現実の報道等から検証してみよう。端的にいってしまえば、白亜紀のDNAが入手できればおそらく復活は可能だ。しかし、DNAの保存には時間的な限界がある。分解速度が速く、理想的な条件下でも回収可能なのは数十万年から数百万年レベルが限界とされている。150万年経過するとDNA配列が判読不能になるというから、6600万年前の白亜紀のDNAの入手可能性は限りなくゼロに近いといえそうだ。(※2)

『ジュラシック・パーク』からの「琥珀中の蚊やダニが吸血した血からDNA抽出」というアイデアは確かに魅力的だが、白亜紀の琥珀は数が少なく保存状態も悪いのが現実である。琥珀は物理的保護の役割は果たすが、DNAの化学的分解を防ぐほどの完璧な保存環境ではないとされる。2017年には恐竜の血を吸ったダニが発見されたが、DNAは抽出されていない。(※3)
現在の絶滅種復活研究も、ネアンデルタール人(約38,000年前)やマンモス(数万年前)などより新しい時代の生物に焦点を当てている。(※4) 2025年4月には、1万3000年ほど前に絶滅したと推測される「ダイアウルフ」を復活させたと米バイオ企業が発表し、話題になったが(※5)、どれも白亜紀よりはずっと現代に近い時代である。
もう一つ。白亜紀には“復活元”となる巨大イナゴが存在していなければならないのだが、調べた範囲内では存在が確認できなかった。復活させようにも「元」がいなさそうな雰囲気ではある。




















