『ジュラシック・ワールド』はもはや現実に 『炎の王国』を通して考えるゲノム編集と未来

『ジュラシック・ワールド』はもはや現実に

 4月7日(日本時間)に発表された、US版のTIME誌の表紙に世界が騒然とした。そこに写っているのは、1匹の白いオオカミ。その上には「絶滅」の意である「Extinct」という単語に取り消し線が入っている。そのオオカミはダイアウルフと呼ばれ、かつてアメリカ大陸に生息し、1万3000年前に絶滅した種だった。それをアメリカの民間企業コロッサル・バイオサイエンシズがゲノム(遺伝子)編集によって“復活”させたのだ。この驚くべきニュースを目にして真っ先に思い浮かべたのは、やはり映画『ジュラシック・パーク』(1993年)だった。

化石から抽出したDNAから絶滅種が“復活”

 一体どうやってダイアウルフは“復活”したのか。TIME誌によると、これまでダイアウルフの化石はアメリカ大陸全土で多数発見されており、その化石の中に保存されていたDNAからダイアウルフのゲノムを解読。それに一致するように、普通のハイイロオオカミ(タイリクオオカミ)の受精後間もない段階の胚に20カ所の遺伝子編集を行った後、飼い犬を代理母とし、結果的に3匹のダイアウルフを3回に分けて出産させたという。

 一方、『ジュラシック・パーク』で説明されていた恐竜の再生技術はこうである。恐竜の血液を吸った蚊が樹皮に閉じ込められて化石化した「琥珀」を採掘し、その蚊から恐竜のDNAを採取する。そのDNAの塩基配列を解析し、欠落部分にカエルのDNAを埋めることで配列を完成させ、未受精のダチョウの卵にDNAを注入。そこから恐竜が孵化する、ということだった。つまり、やっていることはほとんど同じで、『ジュラシック・パーク』が公開されてから32年の時が経った今、あの映画の中で描かれたことが実現したと言っても過言ではないのである。

 この米企業コロッサル・バイオサイエンシズは、2021年に設立された新しい会社であるが実は何を隠そう、すでに2025年3月にはマンモスのDNAをコピーして、マンモスの長く金色の毛皮と脂肪代謝の亢進を特徴に持つ“キメラ”動物「ウーリーマウス」を生み出し、業界を驚かせている。“キメラ”といえば、先述のダイアウルフもハイイロオオカミをベースに生み出しているため、“本物のダイアウルフ”とは言い難いのではないだろうか。

 『ジュラシック』シリーズにおいても、第4作目『ジュラシック・ワールド』(2015年)で様々な恐竜や生物のDNAを組み合わせた、明らかなキメラ恐竜(インドミナス・レックス)が登場したことで、それまでに登場していた恐竜が“本物”のように区別化されていた。しかし、例えば『ジュラシック・パーク』3部作を通してヴェロキラプトルの容姿が現実の発見や研究発表に基づいて変化していることを踏まえると、やはり彼らもある程度“キメラ”的な存在であることを思い知らされるのだ。なんと言っても、大前提としてヴェロキラプトルは本来小型で、劇中のラプトルのモデルになっている恐竜はもっと大型のディノニクスと呼ばれる肉食恐竜なのだから、こういった“なんちゃって”設定からも、映画の中に登場する恐竜が基本的に“キメラ”だという実感が湧く。個人的には、第1作目を観た時の「恐竜、生きている! 人間と一緒にいる!」という感動とリアルさが拭えない故に、あれを“本物”として見てしまう幼心も大切にしたいけれど。

 しかし、この“キメラ論争”はシリーズ第5作目『ジュラシック・ワールド/炎の王国』(2018年)で激化する。そしてコロッサル・バイオサイエンシズが成し遂げた「ダイアウルフ」の“復活”が現実であることを踏まえると、この『炎の王国』がより恐ろしい映画に見えてしまうのだ。

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