『しあわせな結婚』で大石静が描く“しあわせ”とは? 毒をはらんだ創作哲学から紐解く

『しあわせな結婚』大石静の“しあわせ”とは

 7月17日より始まるドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)。「妻が抱える大きな秘密を知ったとき、彼女を愛し続けられるのか?」というテーマで夫婦の愛を問う、完全オリジナルホームドラマでありマリッジ・サスペンスである。脚本を担当するのはNHK大河ドラマ『光る君へ』(2024年)や『星降る夜に』(2023年/テレビ朝日系)などを手掛けた大石静だ。

 人気弁護士・原田幸太郎(阿部サダヲ)は、生来“ひとり好き”。仕事に支障が出ることを嫌い、独身を貫いてきた。しかしある日、高校の美術教師・鈴木ネルラ(松たか子)と運命の出会いを果たす。電撃結婚に踏み切った2人は、ネルラの父、弟、叔父が暮らすマンションで新婚生活をスタート。しかし、ネルラにはとてつもなく “大きな秘密”があり、その全容が少しずつ明らかになっていく。

 ネルラの父・寛役は段田安則、弟・レオは板垣李光人、そして叔父・孝役には岡村たかしと魅力的なキャストが脇を固める。さらには“キーパーソン”となる謎の男・黒川役を杉野遥亮が演じることも発表されており、この布陣を見ても重厚な群像劇になる予感満載だ。

 大石はドラマの発表記者会見の席で、「日本一の俳優だと思っている阿部さんでホームドラマを書きたかったんです。ただ、テレビ朝日の木曜9時という枠のイメージを考えると、ホームドラマだけでは視聴者の方々には物足りないでしょうからサスペンス要素を加え、マリッジ・サスペンスの構想が生まれました」と語っている(※1)。

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 大石の脚本家デビューは1986年。その後『長男の嫁』(1994年/TBS系)やNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』(1996年)などで人気を博し、NHKドラマ『セカンドバージン』(2010年)で禁断の愛を描き大きな話題となったことから、“ラブストーリーの名手”と言われるように。その後も『家売るオンナ』(2016年/日本テレビ系)や『大恋愛〜僕を忘れる君と』(2018年/TBS系)、そして2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』など、実に40年近くに渡ってヒット作を生み出し続けている。

 大石が得意とするところは、“深く人間を描く”こと。「人間誰だって天使の心と悪魔の心を持っていると思うんです。その両面を見せないと、人間を立体的に描けない」と語っているように、キラキラとした表層的な素敵な世界のみならず、その影となる“毒”の部分もしっかり描くからこそ、ドラマに深みが生まれている(※2)。

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 その“毒”の要素は、既成の価値観や当たり前を疑う“まなざし”でもある。例えば『家売るオンナ』において、不動産の営業チーフ・三軒家万智(北川景子)が、40歳を過ぎた引きこもりの息子を持つ家族から相談を受けるという回があった。 “引きこもり=悪・マイナス”ととらえ、解決を目指すのが王道の流れだが、大石脚本は違う。このまま安心して100年引きこもれる“最強サバイバルプラン”を万智が提案するのだ。

 また、ラブストーリーにおいても、あえてインモラルな領域に踏み込むことで、見る者をざわつかせるという手法を使ってきた。こういった“毒”を描くことは「ドラマのつくり手は、誰も考えない独自の哲学を打ち出さなければダメ」という大石の信条とリンクしている(※3)。「オーダーされたものに応え、生きたセリフで物語を紡ぎ、その作品の哲学をスタッフと見る人に示すのが脚本」であるとし、「ひとつの作品にひとつ、私らしい台詞があればいい」と語る(※4)。“ラブストーリーの名手”という響きとは裏腹に、大石のベースには非常にストイックな創作哲学があるのだ。

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