花澤香菜は“愛されるキャラ”を生み出す名人 『鬼滅の刃』甘露寺蜜璃はギャップが魅力に

花澤香菜は“愛されるキャラ”を生み出す名人

 思い返せば、この二面性の表現は花澤のキャリアを語るうえで外せない要素だ。『〈物語〉シリーズ』の千石撫子は、その最たる例だろう。内気でかわいらしい少女が、物語の中盤で豹変し、神となって支配欲を剥き出しにする。そのギャップを声だけで成立させ、視聴者を震え上がらせた声優が花澤香菜だった。

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』本予告

 花澤の声には、可憐さや無垢さの奥に、成長と覚悟を響かせる力がある。『PSYCHO-PASS サイコパス』の常守朱は、まさにその象徴だ。理想だけを胸に抱えた新人監視官が、幾多の犠牲を超えてシビュラシステムという巨大なシステムと向き合う存在になるまでの過程を、声のトーンだけで表現しきったのは花澤だった。当初は高めで張りがない声が、物語が進むごとに落ち着きを増し、台詞の重みが増していく。朱を演じた経験は、蜜璃のように笑顔の奥に強さを持つキャラクターを演じるうえでも確実に生きているのだろう。

TVアニメ「五等分の花嫁∬」キャラクターPV(一花ver.)

 また、『五等分の花嫁』の中野一花や、『3月のライオン』の川本ひなたなど、彼女はかわいさと複雑さを共存させるヒロインを何度も更新してきた。妹キャラから年上のお姉さん役、純粋な守られ役から、誰かを守る側へ。その引き出しの多さが、蜜璃という役に集約している。さらに言えば、『東京喰種トーキョーグール』の神代利世も忘れがたいキャラクターだ。リゼは一見すると艶やかで妖艶な女性だが、その本質は捕食者としての危うさと、理性を超えた本能を剥き出しにする存在だった。花澤はこの役で、無垢さや可憐さとは真逆の怪物性を息遣いと囁きの中に潜ませ、視聴者をゾッとさせた。かわいい声の奥に潜む狂気や残酷さの演技の極端な振れ幅こそ、蜜璃のように“愛されるキャラクター”を生み出す土壌になっている。

TVアニメ『まったく最近の探偵ときたら』メインPV|2025年7月放送決定!

 今後も花澤の声はとどまることを知らない。2025年も、ギャグコメディ『まったく最近の探偵ときたら』では感情が顔に出やすい元気な助手・真白を演じ、ファンタジー『公女殿下の家庭教師』では冷静さと芯の強さを備えたフェリシア・フォスを演じるなど、すでに“かわいい”の枠を越えた新しい挑戦が続いている。

 声だけで物語の奥行きを広げ、キャラクターに潜む光と影を同居させる花澤の演技は、どんなジャンルでも確実に作品世界の説得力を底上げしてきた。恋柱・甘露寺蜜璃は、その集大成の一つであり、花澤香菜という声優の歩みが、可憐さ、脆さ、強さをすべて内包してひとつの形に結実した証と言えるだろう。ジャンルや役柄に縛られない柔軟さを手にした今、彼女がどんな“まだ見ぬ声”を私たちに届けてくれるのか。次に花澤香菜の声が誰のどんな物語を動かすのか、待ち遠しい。

■放送情報
『特別編集版「鬼滅の刃」刀鍛冶の里 敵襲編』
フジテレビ系にて、7月4日(金)20:00~22:46放送
キャスト:花江夏樹(竈門炭治郎役)、鬼頭明里(竈門禰󠄀󠄀豆子役)、下野紘(我妻善逸役)、松岡禎丞(嘴平伊之助役)、小西克幸(宇髄天元役)、石上静香(まきを役)、東山奈央(須磨役)、種﨑敦美(雛鶴役)、沢城みゆき(堕姫役)
原作:吾峠呼世晴(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
美術監督:衛藤功二
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
アニメーション制作:ufotable
主題歌:Aimer「残響散歌」「朝が来る」
©︎吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

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