『めおと日和』“始まり”を見つめ直す“終わり”を徹底分析　日常が続いてほしいという祈り

　『波うららかに、めおと日和』（フジテレビ系）が6月26日に最終話を迎えた。本作は、西香はちによる同名コミック（講談社『コミックDAY』連載）を原作に、『リコカツ』（TBS系）などの泉澤陽子が脚本を手掛けた作品だ。

　主人公であるなつ美と夫・瀧昌を演じる芳根京子と本田響矢、さらにはそれぞれの友人である芙美子・深見を演じる山本舞香と小関裕太の好演も相まって、現代とは結婚観も恋愛観も異なる昭和11年を舞台にした本作は、互いを思いやる夫婦・恋人たちの心情に対する世代を越えた共感と、かわいらしいそれぞれの恋模様を見守りたいという静かな熱狂とともに受け入れられ、大反響の中で幕を閉じた。

　果たして本作の何が私たち視聴者の心をこんなにも動かしたのか。物語の「終わり」を通して「始まり」を見つめ直すかのような最終話終盤から掘り下げる形で、作品全体を分析してみたいと思う。

　最終話の終盤は、様々な気づきで溢れていた。ここで言う「終盤」とは、本作の語り手である生瀬勝久演じる「活動弁士」が、スクリーン上でモノクロ映画のように流れるそれぞれの夫婦・恋人たちの様子を背景に、現代を生きる視聴者へのメッセージを語り終えた後の展開を意味する。

　まずは、BE:FIRSTによる主題歌「夢中」が流れる中で、登場人物たちそれぞれの食卓をはじめとする日常の光景、やりとりの数々が無音で描かれた。彼ら彼女たちの口元と歌詞が同化して、まるで歌っているかのように見えるそれは、本作そのものが、活動弁士が見せる当時の無声映画そのものであるかのように思わせる。

　さらには、その後活動弁士が間違えて「始まり」を出した後に「終」の文字を出すが、そこから始まるのはこれまで何度も観てきたオープニングの映像の最後のショットのコマ送りであり、それまで保留になっていた最終話のオープニング映像だ。その末尾に視聴者に向けて手を振るなつ美（芳根京子）・瀧昌（本田響矢）の姿が加わることで、前述した最後のショットが「更新」される。

　ここから2点言及することができる。1点目は、一旦この愛すべき夫婦を描いたドラマは終わるが、物語の終わりはすぐに新たな物語のはじまりを連れてくるということ。つまり、夫婦の人生の物語はこの先も変わらず続いていくというメッセージだ。2つ目は、「一見変化のない」オープニング映像そのものが、これまで本作が丁寧に描き続けた夫婦の変わらない日常の愛おしさを表しているのだとしたら、その最後のショットの連なりが2人の多種多様な表情の変化を切り取ったものであることが、その一見変わらない日常の豊かさを示しているということ。

　そして、本当の終わりは夫婦の変わらぬ食卓の光景、さらに少しだけいつもと違うことである「敬語をやめてみる」に挑戦してみるけれど恥ずかしくなって笑うなつ美を見て「食べましょう」と微笑む瀧昌の姿だった。それはこれまで通りの「互いを思いやる2人のかわいらしい光景」だ。でも、これまで観てきた光景と決定的に違うのは、本作の特徴であり、視聴者の心を毎度悶えさせてしまった最たる理由である「心情描写」が存在しないということではないだろうか。

　つまりは「（映画に音声がなかった時代）私たちがせりふやナレーションを担当していた」という活動弁士が役目を終えていなくなったために、劇中劇という構造をした本作の枠組みから、ほんの少しはみ出して、現実世界を生きているなつ美と瀧昌の2人が姿を現わしたかのように捉えることができるのではないか。