“韓国の新海誠”ハン・ジウォンによる自立した恋愛映画 『あの星に君がいる』のバランス感覚

『あの星に君がいる』と新海誠作品を比較

 韓国のアニメーション作家として、インディペンデント作品を手掛けてきた、ハン・ジウォン監督。第51回「韓国日報文学賞」を受賞した『わたしに無害なひと』収録の短編小説『あの夏』長編映画『The Summer/あの夏』が、2025年8月15日より日本全国で劇場公開が決定されているなど、彼女の名は日本でも知られることになるだろう。

 そんなハン・ジウォン監督は、その鮮やかなヴィジュアルの表現などから「韓国の新海誠」と呼ばれている。宮﨑駿監督の『もののけ姫』に大きな影響を受けてアニメーションの道に踏み出したジウォン作品のテイストからは、やはり日本のアニメーション作品と地続きのものが感じられる。

 Netflixでリリースされた、彼女の長編作品『あの星に君がいる』もまた、「韓国の新海誠」と言われることがよく分かる一作となった。ここでは、そんな本作『あの星に君がいる』の、日本のアニメーション作品に近い部分、そして異なる部分について考えていきたい。

 本作は、Netflix作品としては初となる、韓国発の長編アニメーション映画だ。Netflixがその才能を抜擢した理由には、ソウル・インディーズ・アニメーション・フェスティバルでインディーズ・スター賞を受賞、サンダンス映画祭やパームスプリングス国際映画祭で、その表現力が評価されてきた実績も大きい。

 物語の舞台は、2050年のソウル。幼い頃に母が火星探査で行方不明となった過去を持つ宇宙飛行士ナニョンは、いつか火星に行くことを目標に日々努力を続けていたが、火星探査プロジェクトの選抜テストに受からず、チームから外され失意のままソウルで暮らしているのだ。そんな彼女の前に、音楽機器の修理店で働く青年ジェイが現れる。

 さまざまな偶然が重なり、運命のような出会いをした二人は、やがて恋愛を経て、お互いを最も大事だと思える存在になっていく。そんな幸せな日々のなかで、再びナニョンは火星探査チームに復帰するチャンスをつかむ。地球と火星。二人の間には大きな“距離”が生まれることになるのだ。

 日常的な街の情景、宇宙の壮大なスケールは、アニメーションならではの美麗な表現に満ちている。それらを背景にしたせつない恋愛の物語は、設定やヴィジュアルの点で、やはり新海作品『ほしのこえ』(2002年)や『君の名は。』(2016年)などを想起させられるものがある。そして、驚くほどストレートに恋人たちの感情が描かれる部分もまた、『君の名は。』や『天気の子』(2019年)のそれを彷彿とさせる。

 『君の名は。』が望外のヒットを成し遂げたのも、この意外なほど真っ直ぐな恋愛表現にあった。それまで日本のアニメーションは、進化や多様化、大人の受け手にも対応するように、複雑化していった経緯がある。そんな状況は、アニメーションのメインストリームが一般的な視聴者、観客の感覚から外れていたのも確かなことだろう。

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