これはもはや『ジョジョ』の映画だッ! 『岸辺露伴は動かない 懺悔室』で変化した“枠組み”

「ジョジョリスペクト」と言えば、並々ならぬ出演俳優陣の「ジョジョ愛」にも触れておかなくてはならないだろう。
『岸辺露伴は動かない』は高橋一生×飯豊まりえの“運命”の作品に “完璧”だった実写化
俳優の高橋一生と飯豊まりえが、5月16日に結婚を発表した。2人の共通点といえば、5月10日にシリーズ最新作「密漁海岸」が放送され…公開初日に行われた舞台挨拶で語られていたが、主演の高橋は『懺悔室』のために原作を1から読み直し表情の研究を行い、田宮役の井浦新やソトバ役の戸次重幸はイタリアでの聖地巡りに勤しんだという。それぞれの『ジョジョ』好きの熱量は、字幕に関係のない、何気ないセリフ回しにも現れる。つまり、ドラマシリーズでも随所に見られたように、本作においては、「おい」というセリフは当然、「おいおいおいおい」なのであり、「生きてるじゃないか」は「生きてるじゃあないか」なのである。

その上で、本作において再び「映画ならでは」だといえるのは、その「時間」のコントロールにあるのだ。特に、原作に忠実な前半部の山場となるポップコーン対決のシーンは、『ジョジョ』のファンにこそ必見の大立ち回りとなっている。大東駿介演じる水尾が「上空に投げたポップコーンを3回連続口でキャッチする」という自らの命をかけた“くだらない”ゲームに挑戦させられるのだが、ここでの、投げられたポップコーンと待ち構える水尾に対する画面の「スローモーション」が、その臨場感をとてつもないほどに爆発させる。
これは劇場という空間を持つ映画ならではの醍醐味であり、自分でページをめくることができる漫画では味わうことのできない体験であると言えるだろう。加えて、大東の、突如として追い詰められた際の軟弱で情けのない挙動から一変、勝ち筋が見えてきた際の横柄で人を見下しくさった挙動への、立場による態度のスイッチがあまりにも素晴らしいものとなっている。まさしく「ジョジョのテンション」とも言えるこうした激情と豹変は紛れもない名シーンであり、「ジョジョ愛」あっての名演であろう。筆者はそこに、第4部での康一や重ちー、ジャンケン小僧を見た。さらに奥のエシディシも。

このような「ジョジョリスペクト」は細部にまで宿っている。劇中には、幸運を呼ぶものとして「てんとう虫のピアス」が登場するのだが、これも完全に第5部における「てんとう虫のブローチ」のオマージュだと言えるだろう。そして、第5部の舞台はイタリアである。このように全編を通して『ジョジョ』要素が散りばめられている本作であるが、さらに驚くべきは映画オリジナルの後半部とその結末までを含めた、ストーリーライン全体としての「ジョジョらしさ」たる再現度の高さなのだ。
そもそも、前半部の『懺悔室』パートで描かれた「この恨みは娘が幸福の絶頂にきた時に必ず迎えに来る」という呪いの物語を受け、本作の後半部では、その娘が呪いと父を克服すべく立ち向かうというパートで構成されている。こうして、幸運に襲われ続けるその娘はヴェネチアンマスクの職人を生業としており、その彼女の「運に頼らないモノづくり」という精神に露伴は共感の意を表すこととなるのだが、この点においては、「ジャンケン小僧」編における、露伴の「もっとも『むずかしい事』は! 『自分を乗り越える事』さ! ぼくは自分の『運』をこれから乗り越える!!」というセリフと繋がる部分を見出せるであろう。また、彼女を助けることとなる動機は、もちろん単なる人助けではなく、「自分のマンガに自分の実力以外の『幸運』が介在したこと」への怒りであるなど、あらゆる場面で“岸辺露伴の精神”が丁寧に調達され、生き生きと描写されているのだ。
そして、本作のクライマックスは岸辺露伴の「幸運も絶望も、疫病のような理不尽も、何にせよ、それに立ち向かって生きる人は『尊敬』するね」といったセリフで飾られるのだが、これも、原作である『懺悔室』のラストシーン「怨霊に取り憑かれてもあきらめず孤独に人生を前向きに生きる男……彼は悪人だと思うがそこのところは尊敬できる……そう思うのはぼくだけかもしれないが……」というセリフを踏襲しているものといえるだろう。だが、ここのセリフに関しては、原作よりも明確に「より普遍的な、人間の営みそれ自体を称揚する」セリフへと映画オリジナルの後半部を踏まえて変化している。
高橋一生の露伴になぜ魅了され続けるのか 『岸辺露伴は動かない 懺悔室』が問う絶望と幸せ
なぜ私たちは、高橋一生演じる岸辺露伴の物語に魅了され続けるのか。その理由は数多あるが、何より彼が、「闇」に惹かれる人物だからでは…さらに映画として、「幸福の絶頂」とはなんたるかという問いに対しては「明日はもっと最高かもしれない」というあまりにもグレートな帰結と答えをもって本作は締め括られる。もちろん、これは、ただのオリジナルならではの改変じゃあない。この変化をあえてもたらすことによって、今作は「岸辺露伴」の映画から、「ジョジョらしさ」を前面に押し出した『ジョジョ』の映画へと枠組みが変化しているのだッ! と筆者は考える。
つまり、『岸辺露伴は動かない 懺悔室』とは、原作である『懺悔室』を単に映像化しただけの作品ではなく、きちんと『ジョジョの奇妙な冒険』という全体をリスペクトした上で描ききった、人間の勇気を讃える“黄金の精神”を備えた「人間賛歌」の映画なのである。
■公開情報
『岸辺露伴は動かない 懺悔室』
全国公開中
出演:高橋一生、飯豊まりえ、玉城ティナ、戸次重幸、大東駿介、井浦新
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない 懺悔室』(集英社ジャンプ コミックス刊)
監督:渡辺一貴
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔/新音楽制作工房
人物デザイン監修・衣裳デザイン:柘植伊佐夫
製作:『岸辺露伴は動かない 懺悔室』 製作委員会
制作プロダクション: NHKエンタープライズ、P.I.C.S.
配給:アスミック・エース
©2025「岸辺露伴は動かない 懺悔室」製作委員会 © LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社
公式サイト:kishiberohan-movie.asmik-ace.co.jp
























