『あんぱん』松嶋菜々子の“登美子節”が炸裂 「戦争が大嫌いだ」に滲む嵩の諦念と恐れ

『あんぱん』“嵩”北村匠海に届いた赤紙

 ついに嵩(北村匠海)のもとに赤紙が届いた。

 教え子の不安に寄り添いながらも揺れるのぶ(今田美桜)、そして葛藤の末に覚悟を固めようとする嵩。それぞれの胸に去来するものは、声にならない後悔や、言葉にできない願いだった。NHK連続テレビ小説『あんぱん』第49話では、戦争がいよいよ家族の中心に影を落としはじめるなか、それでも誰かを想うことをやめない人々の姿が丁寧に描かれた。

 兄に赤紙が届いて不安を募らせる生徒の言葉を聞いたとき、のぶ(今田美桜)の脳裏に浮かんだのは、次郎(中島歩)が別れ際に口にした「僕は、この戦争に勝てるとは思わん」という一言だった。のぶは生徒に対して「日本は勝ちます」と努めて力強く語ったものの、その胸の内は決して穏やかではなかった。表向きには凛と振る舞いながらも、のぶ自身の心もまた、静かに震えていたのだ。

 次郎に言いたかった言葉。それは「生きて帰ってきて」という当たり前の言葉だ。あのとき、どうして素直に伝えられなかったのか。のぶの中に、言葉にできなかった後悔がそっと芽を出していた。

 赤紙を受け取った嵩は、恩師・座間(山寺宏一)に報告。かつて自らも招集された経験を持つ座間は、「訓練は地獄、戦場はその何倍も地獄だ」と静かに語る。その言葉に、嵩は表情を強ばらせながらも、どこかで覚悟を固めていく。健太郎(高橋文哉)を見送ったあの日と同じように、自分も誰かに見送られる側になる。「戦争が大嫌いだ」。改めてそう口にした嵩の声には、怒りでも悲しみでもなく、ただ、深い諦念と恐れが滲んでいるように思えた。座間は厳しい表情で「非国民め!」と吐き出すが、どこかその表情には、痛みを抱えた者だけが見せる深い共感の色が混じっていた。

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