『あんぱん』が戦後80年のいま作られた意義 “愛国の鑑”のぶの葛藤と蘭子の怒りと悲しみ

蘭子を心配して、裏庭まで追いかけてきたのぶ。蘭子は、のぶを相手にやっと豪の死の悲しみを口にすることができた。「立派」という言葉が悔しいとこぼす蘭子に、のぶは国を守るために戦った豪を立派だと言ってあげるべきだと、豪の戦死をだれよりも蘭子が誇りに思わないといけないと諭す。のぶの主張は、当時の日本では正論だったのだろう。しかし、そんな言葉で蘭子の悲しみが癒えるわけがない。

蘭子は男性がお国のために出征すること、国のために命を惜しまず戦うことの正しさ、名誉の戦死は立派なことだと信じることのおかしさを叫ぶ。声を震わせ、泣き叫ぶ蘭子のグラデーションのように大きくなる怒りと悲しみに、心が締め付けられた。絶対に帰ってくる、蘭子をお嫁さんにするという豪との約束は果たされないまま。「決して立派なんて思わんき!」と絶望する蘭子を、思う存分泣きなさいと羽多子が抱き止める。「思いっきり泣いたらええ」という羽多子の声で、のぶも涙をあふれさせた。軍国主義に絡めとられていく市民の価値観、愛する人の死を国のために立派だと言わなければならないおかしさ。戦後80年の2025年に描く意味のあるエピソードだ。
じっくりと戦争の足音の近づきを描いてきた『あんぱん』。第38話は、教師になったのぶを通じて、じわじわと軍国主義が浸透していく様を描いてきた数週分の苦しさが爆発するような回となった。どんなに悲しかろうと愛国の鑑、愛国の先生を貫くのぶは、身近な人の戦死をどう受け止め、行動するのか。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、加瀬亮、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、細田佳央太、高橋文哉、中沢元紀、大森元貴、二宮和也、戸田菜穂、浅田美代子、吉田鋼太郎、竹野内豊、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















