“芸能界の闇”も忖度なしで表現 個人制作アニメ『無名の人生』は初期衝動に溢れている

「これぞ個人制作!」でいうと、芸能界の闇の描写もだ。内容としては、大物プロデューサーが自分の事務所の若い少年たちを性的搾取する……というものだ。こんなにも忖度をせずストレートな表現ができる。「これぞ個人制作!」だ。
新海監督は初期作品において男女のすれ違いを描いてきた。しかし、『君の名は。』(2016年)で主人公とヒロインが最終的に出会えたシーンを観た瞬間に「ああ、変わってしまった」と思った。個人的にあのラストで良かったと思っているし、『君の名は。』は大好きな作品だが、「かつての新海監督だったら最後出会えなかっただろう」と感じたのもまた事実。きっと、作品を重ねて、期待や出資額が大きくなると、変わること……変えざるを得ないこともあるんだろう。

この『無名の人生』は、個人制作だからこその尖った魅力が詰まっている。本作をきっかけに、鈴木監督はどのように変わっていくのかはわからないが、今ここには自ら「100人かかっても作れない内容と、1000人観ても予想できない結末を描けたという、度を超えた自尊心があります」と豪語する初期衝動の塊がある。
近年、技術の進歩でクリエイティブの間口が広がっているが、これから『無名の人生』のような、まだ見ぬ才能が魂を込めて作る個人制作アニメがますます増えていくのが楽しみだ。
参照
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■公開情報
『無名の人生』
新宿武蔵野館ほか全国順次公開中
声の出演:ACE COOL、田中偉登、宇野祥平、猫背椿、鄭玲美、鎌滝恵利、西野諒太郎(シンクロニシティ)、中島歩、毎熊克哉、大橋未歩、津田寛治
監督・原案・作画監督・美術監督・撮影監督・色彩設計・キャラクターデザイン・音楽・編集:鈴木竜也
プロデューサー:岩井澤健治
配給:ロックンロール・マウンテン
配給協力:インターフィルム
2024年/日本/カラー/93分/2.35:1/5.1ch/DCP
©鈴木竜也
公式サイト:https://mumei-no-jinsei.jp





















