瀧内公美が変えた『あんぱん』のカラー 教師・師匠が朝ドラで担ってきた重要な役割

教師・師匠が朝ドラで担ってきた重要な役割

 主演の今田美桜がヒロイン・朝田のぶをパワフルに好演中の朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)。本作はあの大人気キャラクター・アンパンマンの生みの親である夫婦をモデルとし、のぶとその夫となる柳井嵩(北村匠海)の激動の生涯を描いていくものだ。

 のぶが高等女学校から女子師範学校に進んでからというもの、この作品のカラーは少しずつ変わりはじめた。その理由のひとつが、教師である黒井雪子の存在だ。演じているのは瀧内公美である。

 のぶの進学に合わせて黒井が登場するようになったのは、第4週「なにをして生きるのか」からのこと。初登場時も、黒井とのぶが教師と生徒の関係になってからも、彼女の存在は強烈だった。のぶにとって女子師範学校とは、愛する家族のバックアップがあってこそ門をくぐることができた憧れの世界である。しかし、期待に胸を高鳴らせて自分の夢を黒井の前で語ってみたところ、「御国のために尽くす覚悟のない者は去りなさい!」とピシャリとやられた。あの短いシーンだけで、『あんぱん』が描く物語の印象が一気に変わったものだ。厳しい戦争の時代へと突入していったのだから。

 そんな黒井について瀧内は、「この時代を象徴する軍国主義者ですから、やはり威厳のある女性ではありますよね。女性教師がまだまだ少ない時代だからこそ、エリートであり、質実剛健といったところでしょうか。ですから、彼女のきっちりした部分を時代性にちゃんと乗った形で表現できたらなと思いました」と述べている(※)。先述した厳しいセリフとは、当然ながら脚本に記されていたものなのだろう。あのたった一言に、黒井がどのようなキャラクターなのかが端的に表れていた。

 しかし重要なのは、演じ手がどんな声色で、どのような調子で、そしていったいどのような表情で言い放つのかだ。それによって黒井というキャラクターの印象はまるで変わってくるし、のぶがステップアップした新章(=女子師範学校編)のカラーを決定づけるものにもなる。瀧内はかぎられた出演シーンとセリフとで、そういった役割を担ってきた。そしてヒロインを演じる今田がこれに的確に応え、その思想の変化までも体現していくことで、『あんぱん』の印象はガラリと変わってきたのだ。

 瀧内のこれまでの演技者としての功績を理解している方ならば納得だろう。最近の映画作品でいえば『敵』や『レイブンズ』などで体現したヒロイン像、あるいはイキウメの『天の敵』などでのパフォーマンスを追ってきた者としては、「さすが!」と唸りつつ、やはり厳格な黒井という人物を前に萎縮してしまったもの。これは私だけではないはずである。

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